旧ソ連によるシベリア抑留の経験者が当時の様子を描いた絵日記の著書が、有志らによって復刻され、フルカラーで自費出版された。出版に向けて取り組んだ有志の一部が所属する「朗読グループ秋桜(こすもす)」は7月26日、千葉県市川市内であった戦争展で絵日記の一部を朗読した。100人近い来場者が戦争や抑留生活の悲惨さを伝える言葉に耳を傾けた。
「黒パン俘虜(ふりょ)絵日記 太平洋戦争・現世に地獄を見た男」は、茨城県北中郷村(現北茨城市)出身で、千葉市で暮らした為我井(ためがい)正之さん(1911~2008)が、80歳を過ぎてから当時の記憶などをたどって制作した絵日記をもとに、1998年に白黒で刊行された。約3年半にわたる抑留生活の中で、収容所や強制労働、帰国直前の様子などを100点ほどの絵日記で描いている。
戦争展での朗読会で、「秋桜」のメンバーが、捕虜生活の様々な場面が描かれた絵日記を朗読すると、涙を浮かべる来場者の姿が所々で見られた。
強制労働と栄養不足の中、帰国を夢見る捕虜の姿も
「第二二〇収容所」と題する作品では、粉雪が降り続く中、日本人捕虜が電灯もない収容所に入る場面が描かれている。南京虫によって「寝もやらず、夜が明けてしまいました」と厳しい生活環境を伝えている。「望郷」と題された作品では、強制労働と栄養不足に耐えながら、帰国を夢見て富士山を思い出す様子に続いて、「家族の皆様、健在であれ!」と記されている。
「秋桜」のメンバーの秋本美智子さん(70)が、恩師を通じて為我井さんの絵日記の存在を知った。「戦後80年を機に、戦争を伝える貴重な資料を多くの人に見てもらいたい」との思いから、口承文芸学を研究する米屋陽一さん(79)=市川市=らと復刻に向けた編集委員会を立ち上げた。
朗読会の会場を訪れた為我井さんの長女、阿久津晶子さん(75)は「父には『戦争で傷つくのは庶民だ』という思いがあった。子や孫ら後世に伝えたかったものが本になってうれしい」と話した。父の眠る墓前で本の完成を報告したという。
復刻本はA5判(縦21・0センチ、横14・8センチ)で、207ページ。頒布価格は2700円(税込み)。問い合わせは、秋本さん([email protected])へ。