漫画家のおざわゆきさん(60)は2006年、シベリア抑留経験者の絵画展に足を運んだ。

 大量の油絵が訴えかけてくるものに圧倒され、作者が寝たきりになっていると知る。

 「もう時間がない。やるなら今しかない」

 会場を飛び出すと、父・小澤昌一(まさかず)さんに電話をかけた。

漫画家のおざわゆきさん。「戦争を知るためのツールとして漫画を使っていただける機会が増えた。描いてよかった」と話す=2025年7月30日、岩波精撮影

 「60年も思い出さんようにしとったでね、そしたら忘れてしまったんだわ」

 そう言いながら、昌一さんはぽつりぽつりと語り出した。

 終戦から80年。戦争の「リアル」を漫画で次世代につなごうとしている3人を取材しました。今回は、両親から聞いたシベリア抑留と名古屋大空襲を描いた、おざわゆきさん(60)です。

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極寒と飢えと重労働「あまりに壮絶」

 昌一さんは東洋大学の予科生だった19歳で召集され、旧満州(中国東北部)に向かった。終戦を知らされないまま、ソ連軍によってシベリアへ送られ、4年あまり抑留された。

 おざわさんは「家族の戦争体験」をまとめる宿題が出された高校3年生のとき、昌一さんに話を聞いていた。いつか作品にしたいと思いつつ、絵画展に行くまで、踏み切れずにいた。

 あらためて聞いた抑留生活は…

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