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インド南部チェンナイ近郊で2024年9月10日、ストライキ中に演説を聴くサムスン電子の工場労働者ら=ロイター

 インドにある外資企業の工場が昨年、世界の注目を集めた。現地で高いシェアを誇る家電メーカーの拠点で、従業員1千人超が1カ月超にわたってストライキを行ったのだ。ストが事業運営や投資におけるリスクと見られがちなインドだが、取材すると、製造業振興が進むなかで当事者の抱える葛藤が見えてきた。

14億人の需要を取り込もうと、インド市場の開拓を目指す企業。ただ、そこには壁も存在すると指摘されます。現場を訪ね、その実態を取材しました。

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 インド南部チェンナイ近郊にあるサムスン電子(韓国)の現地子会社。冷蔵庫や洗濯機を造る工場で働く、作業服を着た従業員が退勤してきた。敷地外の路上でカメラを取り出すと、警備員が駆けつけ「写真撮影は許可されていない」と言った。

 これに先立つ昨年9月、この工場の従業員らで組織する会社非公認の「労働組合」が、スト実施を宣言した。州当局によると、全従業員の8割超に当たる1550人が参加。主な要求は、3年間で月額給与3万6千ルピー(約6万3千円)の昇給だ。この工場で働く労働者の平均月収は2万5千ルピーとされ、付近の日系企業も同程度の給与水準をとる中、大幅な賃上げを求めた。勤務中の死亡事故に対する金銭補償の創設などと合わせ、20項目を経営側に求めた。

 労働者側と経営側に、仲裁者の州当局も交えて協議が繰り返された。開始から37日目。双方は「仕事に戻る」ことなどで合意し、「過去数年で最大」と報じられたストはようやく終結した。地元紙はサムスン側が、ストによる損失が1億ドル(約149億円)に上ると見ていると伝えた。

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インド南部タミルナドゥ州にあるサムスン電子の家電工場から退勤し、バスに向かう労働者たち=2024年11月28日、スリペルンブドゥル、伊藤弘毅撮影

 朝日新聞が入手した、労使の「基本合意書」には、6カ月間にわたる月5千ルピーの「奨励金」の導入のほか、空調付き通勤バスの全路線への導入といった項目が並ぶ。賃金アップは含まれず、福利厚生が主だ。

 交渉の現場で何が起きていたのか。労組の「委員長」E・ムトゥクマール氏(59)によると、ストが長期化した背景には、賃上げ要求水準の高さなどに加え、「交渉相手の正当性」を巡る意見の違いがあったようだ。

サムスンの工場で「委員長」を務める男性が、取材に語ったこととは。記事後半では、モディ政権が製造業振興策「メイク・イン・インディア」を進めるなか、行政、企業、働き手がそれぞれに深めている悩みについて読み解きます。

従業員ではない「委員長」

 同氏はサムスンの従業員では…

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