マンガ研究者の三輪健太朗さん=東京都目黒区の東京大学

 電子マンガの読者が増える中、スマホ画面を縦方向にスクロールする「縦読み」作品が広がっています。韓国発祥のこのスタイルは、マンガ表現の歴史の中で、どう位置づけられるのでしょうか。マンガ研究者で東京大学准教授(表象文化論)の三輪健太朗さんに聞きました。

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 学生たち、特に韓国や中国からの留学生は「縦読みマンガ」に親しんでいます。紙に印刷されたマンガを研究してきた私にとっても、マンガというジャンル、メディアを改めて考えさせるものだと感じています。

 雑誌や本に印刷されたマンガの大半は、コマを順に追って読み進めます。日本で古くからあったのは、同じ大きさのコマが縦1列に並び、「上から下へ、次に左隣の列へ」の方式。欧米の影響で「横1段を左から右へ、次にその下の段へ」という形もありました。

 戦後しばらくまでに、ページの右上から左上へ、次に右下から左下へと視線を導く「逆Z型」が定着。その中で、コマの形や大きさでメリハリをつけ、時にはコマの枠線をはみ出すといった多彩な演出が開拓されました。少女マンガは、一つの画面に記憶や心象風景など複数の場面を描き込み、いくつもの時間や空間の層を同時に存在させる、独特の手法も生み出しました。

 こうしてマンガは、雑誌や本という媒体の中で表現を洗練させ、「直線的に進む物語」と、見開いた2ページが目に入る「空間的な広がり」という二重性を持つ、独自のおもしろさを獲得してきました。

 一方「縦読み」は、先へ先へ…

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