オープンを翌月に控えた「テラッセ オレンジ トイ」で行われた津波避難訓練。参加者は避難場所まで階段を駆け上がった=2024年6月22日、静岡県伊豆市土肥、南島信也撮影

現場へ! 逃げる防災@伊豆(3)

 津波災害特別警戒区域(オレンジゾーン)の指定に向けて、静岡県伊豆市の担当者らによる地域住民への説明は依然、続いていた。

 反対の急先鋒(きゅうせんぽう)だったのは、当時は旅館協同組合の役員だった野毛貴登(55)だ。区域に指定されたら地価が下がりかねない。土地を担保にして金融機関からお金を借りて旅館を建てた経営者にとって、譲れないものだった。「数年で担当が代わる役人と、根を生やして商売をしている経営者とは事情が違う。わざわざ危険だと言う必要があるのか」

 市の防災安全課の主幹だった山口雄一(58)はある策に出た。市内に店舗がある四つの金融機関に質問状を出し、特別警戒区域に指定した場合、地価への影響はあるかを尋ねた。民間の土地の動向に行政が口を挟むのは異例のことだが、野毛ら旅館経営者に納得してもらうには、裏付けが必要だと考えた。金融機関からの回答は、東日本大震災によって沿岸地域の地価は全般的に下がる傾向が出ているが、指定の影響はない、という内容だった。

 山口らは、ケアマネジャーやライフセーバー、民生委員など防災以外の団体の集まりにも出向き、市の考えを説明した。2016年11月にはスーパーの前で1週間テントを張り、出前説明会も開いた。県職員と一緒に、買い物客に声を掛けて自宅の住所を聞き、ハザードマップに当てはめながら説明した。「地域の実情、指定の意義を理解してもらうため、人が集まる場所に呼ばれたら説明に行った」と山口。当初は16年度末の区域指定をめざしていたが、1年先延ばしすることにした。行政主導ではなく、住民が主役のまちづくりをするためだった。

「これまでの行政に足りなかった」

 地元の中学とも協力し、防災…

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