子どもの頃、秘密にしていた夢がかなう――。
パリ市のアンヌ・イダルゴ市長(64)は5月2日、地下空間に広がる巨大貯水槽の落成式で、その「夢」を打ち明けた。
「それはセーヌ川で泳ぐこと」
100年ぶりに開かれる夏季五輪で「心臓」と表現されるほど、セーヌ川は今、パリにとって特別な意味を持つ。開会式では選手らを乗せた船180隻がノートルダム大聖堂やルーブル美術館を見渡す水上をパレードし、トライアスロンなどの舞台にもなる。
その巨大さから「もう一つの大聖堂」と呼ばれる地下貯水槽は、パリ五輪を成功させるための切り札だ。
パリ南東部にあるオステルリッツ駅近くの円柱状のコンクリート施設は直径約50メートル、深さ約30メートルで、競技用プール20杯分の水をためられる。大雨の際、洪水を防ぐために雨水とともにセーヌ川に放出していた生活排水をこの施設に流し込み、川の汚染を減らす。加えて、複数の浄化施設も建設。総額は約14億ユーロ(約2400億円)に上り、うち半分を国が負担する。
国際オリンピック委員会(IOC)幹部で、パリ五輪の調整委員長を務めるピエールオリビエ・ベケール氏は、「これからの五輪は環境に配慮した持続可能なスポーツイベントとして、市民や社会に役立つものでなければならない。パリは、五輪にとっての転換点だ」と誇る。
環境政策が重視される欧州の地で開催される以上、パリ五輪も環境問題と無縁ではいられない。「泳げるセーヌ川」の復活は、気候変動への危機感が高まるなか、環境を高い優先順位に置く欧州の都市政策の流れでもある。
「冷蔵庫やソファが流れる川で…」
セーヌ川で遊泳が禁止されたのは1923年。シラク元大統領がパリ市長時代の90年に泳げるようにすると宣言したが、実現しないままに終わった。
合わせ鏡のオリンピック 東京とパリ
7月にオリンピックの開幕を迎えるパリと、3年前に開催した東京。二つの都市から見えてきた、オリンピックの足元に広がる理想と現実を連載でお伝えします。
それだけに、イダルゴ市長に…