富山にロシア人がやってきた。10年前に開かれた日ロ交流の北方領土関連のイベント。東狐(とっこ)百合子さん(84)は、手厚くもてなしながら、敵対心を抱いていた。「なんで島をとった人に、ここまでしないといかんのかな」
とにかく、ロシア人が怖かった。
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歯舞群島・志発島にソ連兵が降り立ったのは1945年9月3日だった。
まだ5歳。「おっかないから帰るよ」。母と急ぎ、自宅へ戻る。ちゃぶ台を囲んで待ち構えた。祖母は隣の家の若い女性に、炭や灰を塗って、年齢がわからないようにしていた。
8人のソ連兵がドアを蹴るように押し入ってきた。母は「泣かれんよ、泣かれんよ」と2歳の妹を背負いながらささやく。
鉄かぶとをかぶり、銃を携えた一人の兵隊が手を差し出してきた。「どうしたらいいの、殺されるかもしらん」。震えていると、他の兵士が制止するようなしぐさをした。
一緒に自宅にいた日本兵は連…