タイとカンボジアの国境地帯にあるプレアビヒア寺院を訪れる仏教僧=2013年11月、ロイター

 タイとカンボジアの国境地帯で、軍事衝突のリスクが高まっている。火種は、日本人観光客も多く訪れる世界遺産「プレアビヒア寺院」一帯をめぐる領有権争いだ。5月に両軍の銃撃戦が起き、カンボジア兵1人が死亡。カンボジア軍は国境地帯に部隊を増派し、タイ軍も「高レベルの軍事作戦」を開始する用意があると表明した。

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 銃撃戦は5月28日早朝、タイ東北部ウボンラチャタニ県とカンボジア北部プレアビヒア州が接する両国の係争地で発生。タイ軍は、武装したカンボジア兵がタイ領内に入ったとの情報を受けて部隊を派遣し哨戒活動を行ったところ、発砲されたため応戦したと発表。一方でカンボジア政府は、同地が「長い間、カンボジア軍の拠点だった」とし、タイ側が先に発砲したと主張する。銃撃は約10分間続き、両軍現地幹部の協議で戦闘は停止された。

 タイのペートンタン首相は同日午後、銃撃戦を受けてカンボジアのフン・マネット首相と対応を協議したと明かした。両国は対立の過熱を防ぐべく、首脳や閣僚間で協議を続けた。

 だがその後も沈静化せず、タイ軍は今月7日、国家安全保障会議での協議を受け、両国境に位置する全検問所を軍の管理下に置くと発表。タイは段階的な国境封鎖を始め、観光客らの通過を禁じたり、開門時間を短縮したりしている。

 タイの警察当局も、両国の衝突に備えるよう関係組織に指示。現地メディアは、タイ側の小学校で衝突に備えた避難訓練の様子を伝えるなど、対立は市民生活にも影響を及ぼしつつあった。

 そんな中、ロイター通信は8日、双方の部隊が衝突以前の位置まで後退することで両国が合意したとカンボジア国防省が明かした、と報じた。14日に両国の「合同国境委員会」で対話する予定だが、先行きは見通せない状況だ。在タイ日本大使館は8日、「不測の事態が発生する可能性が否定できない」とし、衝突現場周辺に不用意に近寄らないよう、在留邦人らに注意喚起のメールを流した。

仏植民地期から続く対立

 背景には、1世紀以上に及ぶ…

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