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連載:済州に捧げる歌 加藤登紀子さん 戦後80年の旅【4】

 「済州4・3前夜祭」に出演することになった加藤登紀子さん。「分断を越えて」をテーマに掲げたステージで最初の曲に選んだのは、思い入れの深い韓国の歌「鳳仙花(ポンソナ)」だった。

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「済州4・3前夜祭」で「鳳仙花」を歌う加藤登紀子さん=2025年4月2日、韓国・済州島、中野晃撮影

 日本の植民地支配期に誕生し、「抗日歌」として朝鮮の人々が口ずさんだという歌。登紀子さんは1970年代に友人が歌うのを聞いて出会い、大切に歌ってきた。

 90年12月、韓国で初めてのコンサートをソウルで開いた。当時はまだ日本の大衆文化が開放されておらず、日本語で歌うことに注目が集まった。ただ、登紀子さんが最も望んでいたのは韓国語で歌う「鳳仙花」だった。

 開催に先立つ記者会見で、韓国人記者からは「日本人が歌うことを許さない人がいると思いますよ」と言われた。でも、韓国の人々の心と向きあうためにも、どうしても歌いたい。

 「私の歌う『鳳仙花』を聞いてください。その上でどうしても歌うなというならやめます」。会見の場で、覚えたばかりの韓国語で歌った。心を動かされたのか、記者らは「もう少しきちんとした韓国語で歌ってほしい」と1時間余りかけて正確な発音を教えてくれた。

 迎えたコンサート当日。聴衆の拍手がひときわ大きかったのが「鳳仙花」だった。席を立ってステージまで駆け寄り、抱きしめてくれた人もいた。

 「鳳仙花」を韓国での公演で歌うのは、そんな経緯があった35年前のソウル以来になる。

 4月2日夜、済州アートセン…

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