デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉が人口に膾炙(かいしゃ)して久しい。しかし、いくらデジタル化が進んでも、紙の役割はなくならないだろう。それがよくわかる場所がある。東京都千代田区の国立公文書館だ。
古いものでは1千年以上前、平安時代の歴史資料を含む同館所蔵約170万点の公文書類は、紙が永久保存に適した優れた媒体であることを物語っている。電子データと違い、改竄(かいざん)すれば確実に痕跡が残り、内容がシステム障害などで消える恐れもない。劣化しても修復が可能だ。
この修復作業に欠かせないのがやはり紙だ。ただし和紙。なぜなのか。
「薄くても丈夫で数百年単位で劣化しないからです」。業務課修復係長の浅場沙帆さんが教えてくれた。虫に食われた書物なら、厚みや色みが同じ和紙を穴の形に合わせてちぎり、穴にあてがう「繕い」を施す。「ちぎることで毛羽を出し、この毛羽を利用して貼ります」と浅場さん。和紙は毛羽となる紙の繊維が長いのでしっかりと貼り付けることができるという。接着剤に使うのは、職員手作り天然100%の生麩糊(しょうふのり)だ。
なぜ、和紙は破れにくく長持ちするのだろう。
「大事なのは水の音と水の動き」
奈良県吉野町の福西和紙本舗を訪ねた。掛け軸を一番後ろから支える総裏紙に使われる宇陀紙(うだがみ)などを製造する工房だ。その優れた耐久性などが評価され、国宝の掛け軸の修復の際は同じ和紙でも宇陀紙が必ず使われることになっている。
3月22日、福西正行さん(63)は漉(す)き舟と呼ばれる水槽で和紙を漉いていた。漉き舟には紙料液――クワ科植物の楮(こうぞ)の皮から取り出した繊維紙料、ノリウツギの粘液を使った「ネリ」、アルカリ成分の白土(石灰岩)を水に入れて攪拌(かくはん)した液体――が満ちている。
そこに、萱(かや)ひごで編…