サザンオールスターズが、半世紀近いキャリアで最大規模の全国ツアーをおこなった。福岡、名古屋、札幌、大阪、東京の「5大ドーム」を含む全26公演。計約60万席のチケットは発売直後に完売した。3月に出したオリジナルアルバム「THANK YOU SO MUCH」の楽曲を中核に据えたライブから、バンドの現在地への自信がみえた。
今年1月11日。能登半島地震の被災地・石川県からツアーは始まった。
サザンは石川県内でライブをおこなうのは26年ぶり。今年元日、公式サイトに「昨年の今日も、日本中が深い悲しみに覆われたことを忘れることはできません」との文章を掲載し、全国の被災地に思いを寄せた新曲「桜、ひらり」を配信リリースしたサザンの、石川への思いが伝わってきた。
新曲満載のセットリスト
ツアーでは、かつてのヒット曲は控えめ。「いとしのエリー」「真夏の果実」は演奏せず、新曲がこれでもかと放り込まれていた。記者は3月の香川公演、4月の福岡公演も見たが、セットリストはツアーを通じてほぼ同じだった。
千秋楽となった5月29日の東京ドーム公演では全28曲のうち、4割以上を占める12曲が新アルバムから選ばれた。
- サザン、予測不能な旅は続く 10年ぶり新アルバム「THANK YOU SO MUCH」
多数のヒット曲を持つベテランミュージシャンが、大規模ツアーでこれほど新作を多くやるのは非常に珍しい。「懐メロバンド」にはならないという矜持(きょうじ)が見えた。大歓迎で受け入れるファンにも、最新のサザンを見たいという思いが感じられた。
この日は「逢いたさ見たさ 病める My Mind」(1982年)で始まり、「ジャンヌ・ダルクによろしく」(2024年に配信シングルとしてリリース、新作アルバムに収録)、「せつない胸に風が吹いてた」(1992年)と、様々な時代の作品を織り交ぜて展開していく。旧作はいまなお新鮮に聞こえ、時代を超える強度を感じさせた。
社会問題を切り取る2曲のパフォーマンスに鮮烈な印象
中盤の白眉(はくび)は、社会問題を鋭く切り取った2曲だった。
地球や人類の未来を憂える新曲「史上最恐のモンスター」は、サザンの新機軸を示したともいえるサウンドが特徴だ。ドラムのビートは最小限で、ピアノやベースで作ったミニマルで緊張感ある音が空間を支配する。スクリーンには崩れゆく氷河や、ベルトコンベヤーに載せられた壊れた自動車、大量の箱が配送されていく場面などが映し出された。消費社会が地球にもたらした課題に、視覚的にも警鐘を鳴らした。
「アルフィーより年下です。石破総理より年上です」「コメは行き渡ってますか」と冗談っぽく話した後、アコースティックギターを手にした桑田佳祐さん(69)が歌い出したのは「ニッポンのヒール」(92年)。
軍隊やポピュリズム、イエロージャーナリズムなどをシニカルに表現したこの曲を、ボブ・ディランが憑依(ひょうい)したような節回しで歌う。今の世界状況が、曲のメッセージの普遍性を不幸にも証明しているように感じられ、鮮烈な印象を受けた。
ド派手なステージで締めくくり
終盤は一転。「マチルダBABY」(83年)では足を高く上げて宙を蹴り、「マンピーのG★SPOT」(95年)では背中にトンボのような羽を付け、頭には奇妙なカツラをつけた。男性器のようだがトンボの目にも戦車にも見え、「下ネタじゃないよ」とぎりぎり言い訳がたつ。くだらなさに思わず笑ってしまう。ダンサーと踊り狂い、ド派手に本編を締めた。
アンコールは4曲。最終曲はデビュー曲「勝手にシンドバッド」(78年)だった。金色のテープが宙を舞い、ステージは狂乱と混沌(こんとん)の宴に。酒瓶を持って腹を出して闊歩(かっぽ)するおじさんや、覆面レスラーのコスプレをしたダンサーもいる。客とコール&レスポンスを繰り返し、亡きアントニオ猪木さんの「1、2、3、ダー!」で終えた。
サザンのファンは増え続け、ライブのチケット争奪戦は激しさを増しています。人気の背景にはなにがあるのでしょうか。記事後半では、音楽評論家の萩原健太さんのお話や、最終公演のセットリストなどをご紹介します。
サザンはいつも変幻自在だ…