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児童養護施設「一宮学園」の男子用の小規模施設で台所に立つケアワーカーの男性。リビングとの間の窓の大きさは、台所に立つ職員と子どもたちとの適度な距離を保つ設計だという=2025年4月16日、千葉県

現場へ! 巣立ちを支える(4)

 「朝、おみそ汁の香りで目覚めてほしいんです」

 千葉県一宮町にある児童養護施設「一宮学園」の副施設長、山口修平さん(47)が4月、事務所とは別の場所に6年前にできた地域小規模児童養護施設を案内してくれた。子どもたちが抱えるトラウマを意識した建物にしているという。

 地域社会で育てようと、住宅街の中にある。男子と女子の施設を「二世帯住宅」のように隣接させた木造2階建てで、小学生から高校生の男女各6人が暮らす。入り口も内部も男女別の構造だ。カウンターキッチンの窓の大きさは、子どもが居るのは分かっても、見えすぎないようになっている。「設計段階で、窓から見える範囲を試行錯誤したんです」

体も心も満たされる食事

 ダイニングとリビングは吹き抜けになっていて、料理の香りは2階にも届く。物が少なく片付けられている。玄関やテーブルには毎日必ず、季節の生花を飾る。この日、女子の施設では、職員の女性が分けてもらったタケノコの下ゆでをしていた。

 体も心も満たされるちゃんとした食事を与えられず、掃除もされず雑然とした、快適とは言えない環境で生きてきた子どもたち。心的外傷後ストレス症(PTSD)の症状の一つで、トラウマを体験したときを想起させることに出合うと、怖い体験を思い出してしまうことがある。

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「一宮学園」の地域小規模児童養護施設にある個室。引き戸を開けても顔が見えないので、子どもは安心できる。つらい体験を思い出させる大きな音がしないよう、勢いよく引き戸を閉めても、直前で止まってゆっくり閉じる仕様だ=2025年4月16日、千葉県

 トラウマを再体験しないよう、おいしい匂い、片付いて、静かで穏やかな部屋――。安心・安全な暮らしや生活環境を五感に訴え、子どもたちが「育ち直し」をする試みだ。

 きっかけは、約20年前にさ…

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