米国はいざというときに日本の頼りにならないかもしれない――そんな不安の広がりを映してか、自主防衛の力を高めようと訴える声が増している。大国間同士でのディール(取引)に関心を集中させるトランプ米政権の姿勢が不安の引き金になっているようだ。しかし、自主防衛とは何を指すのだろう。そして、日本でそれが成立する条件とは。冷静な議論の土台を求めて、防衛政策の歴史に詳しい政治学者の千々和泰明さんに聞いた。
日本にとって最悪の「大国間ディール」
――日本の防衛政策史を研究してきた立場として、トランプ米政権が「大国中心」的な言動を強めている事態をどう見ていますか。
「今日は所属組織の一員としてではなく、一政治学者として話します」
「中小国の運命が大国間のディール(取引)で決められてしまうことへの不安が、トランプ政権のウクライナ停戦への動きによって世界中で高まっているのは事実でしょう。第2次世界大戦末期に米英ソの首脳が戦後世界の青写真を描いたヤルタ会談(1945年)の歴史が思い起こされているのもそのためです」
――ヤルタ会談は敗戦国となる日本の運命を方向づけたものでもありました。
「日本にとってヤルタ会談は近現代で最悪の大国間ディールでした。日本の領土だった千島列島をソ連に引き渡す見返りに、ソ連が対日参戦するという密約が交わされていたからです。そのとき日本はソ連の仲介による戦争終結を目指していたわけですから、密約は最悪以外の何ものでもありませんでした」
「ただし、それからわずか6年後に日本の国際的な立場が好転した事実も注目されるべきだと思います」
生き抜くカギは戦略的価値
――どういうことでしょうか。
「敗戦国に対して非常に寛大…