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経済学者の柴山桂太・京大大学院准教授

 威圧的な交渉と朝令暮改の「トランプ関税」によって、世界経済が混迷を深めている。報復と自衛のために、各国が経済的な国境の壁を高める動きも強まっている。

 歴史的にみれば、世界経済は自由貿易主義と保護主義の間で揺れ動いてきた。経済学者の柴山桂太・京大大学院准教授は、グローバル化の矛盾が噴出した現在、先進国を中心に保護主義が再び台頭するのは必然の流れだと説く。関税報復合戦やブロック経済が戦争を呼び込んだ過去の教訓も糧に、世界は新たな国際経済の秩序を築くことができるのだろうか。

多国間主義のご破算に突き進む米国

 ――「トランプ関税」に世界が振り回されています。米国は今月上旬、各国に高関税を課す方針をあらためて発表しました。

 「トランプ関税の問題点は、税率が極めて高水準というだけでなく、恣意(しい)的に乱高下することです。日本に対しては既に10%の相互関税と25%の自動車関税などを発動しており、8月1日には相互関税を25%に引き上げると通告していました。日本側の必死の交渉で相互関税は15%、自動車関税は12.5%と当初方針より引き下げられましたが、この先は流動的です。対中関税も145%から30%にまで下げられたものの、あくまで8月12日までの暫定措置です」

 「これは米企業にとっても同様です。トランプ氏個人の判断で税率が変動し、為替も不透明性を増し、生産拠点の国内回帰の圧力をかけられている。予測可能性が低下し、意思決定がばくちに近くなり、長期計画の策定も困難になっています」

 「経済への悪影響は避けられませんが、トランプ氏はそれも織り込んだ上で、アメリカ・ファーストを実現するために、現在のグローバル経済をいったんご破算にしようと考えているのでしょう」

 ――トランプ政権の「自由貿易によって世界は豊かになったが、米国はむしろ貧しくなった」という世界認識は1期目から一貫していますね。

 「2001年の中国のWTO(世界貿易機関)加盟などで生産拠点の国外移転が加速し、製造業の衰退と雇用喪失を招き、中間層が没落した。この流れを逆転させたい――その姿勢は、2期目でより強く打ち出されています」

 「その転換の一つが、通商政策の多国間主義から二国間主義への移行です」

 「第2次大戦後の国際経済秩…

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