米トランプ政権による関税措置は、米国の株・債券・ドルがそろって売られる「トリプル安」を呼ぶなど金融市場に動揺を広げている。2008年のリーマン・ショック後の世界金融危機に対応した欧州中央銀行(ECB)元総裁のジャンクロード・トリシェ氏は、今の世界の金融システムが脆弱(ぜいじゃく)だと指摘し、「新たな危機のリスクは排除できない」と警鐘を鳴らす。
――トランプ政権の関税措置が世界経済に与える影響をどうみますか。
「現時点でトランプ氏が下した決定にポジティブな点はなく、非常に深刻な懸念を抱いている。まず最初に決定した一連の関税措置は、米国経済の観点から見て非常に非生産的で負の効果をもたらすものだ。インフレを引き起こし、消費者の購買力を奪い、実体経済の成長鈍化をもたらすためだ。米国から(関税で)攻撃される国々による報復措置の影響も考慮すると、ほかの地域でも同じ理由で物価が上昇し、成長が鈍化し、世界経済は潜在的に重大な打撃を受ける可能性がある」
――米国の「トリプル安」が意味するものは?
「米国の株式や債券、ドルの価値がいずれも下落する状況は異例だ。米国へのあらゆる金融投資が、世界の投資家の大部分から否定的に見なされている。こんな状況を私は見たことがない。通常、実体経済が鈍化すれば株式が下落する一方、金利が低下して債券の価値は回復すると考えられている。株式の損失を相殺する自動的な安定装置が働くわけだ。しかし、トランプ氏の決定は、実体経済を押し下げると同時に、(インフレを引き起こして)金利を押し上げるという極めて非生産的で異常なものだったから起きたことだ」
――新たな金融危機のリスクはありますか。
「そのリスクは排除できない…