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シンガポールで2025年4月28日、総選挙に向けた人民行動党による昼食時間帯の集会に参加する人たち=ロイター

 トランプ米政権の高関税政策で世界が急速に保護主義に傾く中、貿易立国のシンガポールは5月3日に総選挙を行います。独立以来、与党による事実上の一党支配が続いてきた国で、いま何が問われているのか。シンガポール政治に詳しい、田村慶子・北九州市立大名誉教授に聞きました。

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 ――米政権が、高関税政策を進めています。

 シンガポールに課された関税率は最低水準の10%ですが、米国と自由貿易協定のあるシンガポールにとってはショックでした。他方、東南アジア諸国連合(ASEAN)の他の加盟国と比べれば、税率は相当低い。このことが、短期的にはシンガポールに「漁夫の利」をもたらす可能性があると見ています。税率が高い中国などから企業が拠点を移すことが想定されます。ASEANにおける輸出の玄関口として貿易量を増やせるかもしれません。

 それでも、長期的に見れば不安定な立場にあります。今の状況で対米輸出を増やせば、米国は税率を高めるかもしれない。中国と経済的な結びつきが強まれば、米国の圧力も強まるでしょう。難しい状況です。

 ――与党・人民行動党(PAP)のトップ交代後、初の総選挙です。

 シンガポールは、新自由主義のモデルのような国家です。「福祉を充実させたら国民は働かなくなる」というのが、建国の父リー・クアンユー初代首相以来続くPAP政権の考え方でした。1人当たり所得では日本をはるかに上回るものの、社会福祉政策は貧弱で、貧富の差は拡大しています。

新たなリーダーのもとで迎えたシンガポール総選挙の論点とは。記事後半では、激変する国際環境のなかで、小国のシンガポールがこの先進んでいくであろう道について、語っています。

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