トランプ米政権の高関税政策で世界が急速に保護主義に傾く中、貿易立国のシンガポールは5月3日に総選挙を行います。独立以来、与党による事実上の一党支配が続いてきた国で、いま何が問われているのか。シンガポール政治に詳しい、田村慶子・北九州市立大名誉教授に聞きました。
- 「この関税では難しい」嘆く水産業者 アジアの「米国離れ」加速必至
――米政権が、高関税政策を進めています。
シンガポールに課された関税率は最低水準の10%ですが、米国と自由貿易協定のあるシンガポールにとってはショックでした。他方、東南アジア諸国連合(ASEAN)の他の加盟国と比べれば、税率は相当低い。このことが、短期的にはシンガポールに「漁夫の利」をもたらす可能性があると見ています。税率が高い中国などから企業が拠点を移すことが想定されます。ASEANにおける輸出の玄関口として貿易量を増やせるかもしれません。
それでも、長期的に見れば不安定な立場にあります。今の状況で対米輸出を増やせば、米国は税率を高めるかもしれない。中国と経済的な結びつきが強まれば、米国の圧力も強まるでしょう。難しい状況です。
――与党・人民行動党(PAP)のトップ交代後、初の総選挙です。
シンガポールは、新自由主義のモデルのような国家です。「福祉を充実させたら国民は働かなくなる」というのが、建国の父リー・クアンユー初代首相以来続くPAP政権の考え方でした。1人当たり所得では日本をはるかに上回るものの、社会福祉政策は貧弱で、貧富の差は拡大しています。
新たなリーダーのもとで迎えたシンガポール総選挙の論点とは。記事後半では、激変する国際環境のなかで、小国のシンガポールがこの先進んでいくであろう道について、語っています。
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