多くの人が行き交う東京の渋谷駅にほど近い渋谷警察署の裏に、小さなテント劇場が突如、現れた。
名前は「渋谷 ドリカム シアター」。人気バンドDREAMS COME TRUEのメンバーである中村正人さんが、自身が製作にかかわる映画の公開に合わせて建てた。
劇場について、中村さんは「どうせ赤字に決まっている」と語る。それなのに、どうして建てたのか。背景を尋ねると、渋谷という街への思いが口からあふれ出てきた。
中村正人さんは学生時代からデビューまで、文化の発信地だった渋谷で音楽活動にふけっていました。ドリカムと渋谷を巡る思い出もたっぷり語っていただきました。
――渋谷ドリカムシアターは、中村さんがエグゼクティブプロデューサーを務める堤幸彦監督の映画「Page30」の上映館として、公開日である4月11日にオープンしました。どういった経緯だったのでしょうか。
「Page30」は少し変わった映画です。女性の俳優4人が小さな円形の劇場に集められ、台本を渡されて、4日後の本番に向けて準備するよう言われる物語。ほとんどの場面が、4人が集められた劇場の中で撮影されています。
映画が変わっているなら、上映する映画館も一風変わったものがいいと、今作の関係者から劇場を建てる提案を受けました。土地がどこかにないか調べたら、渋谷のあの場所が出てきた。
――ドリカムシアターは、映画の上映以外にも使う予定なんですよね。
アーティストにトークイベントをしてもらったり、カルチャー教室に使ってもらったりします。演劇で興行に挑戦したいという学生たちにも貸したい。経営者として採算も重視しますが、どうせ赤字ですから、渋谷からカルチャーを発信する装置としてドリカムシアターがどれだけ機能するか見てみたいです。才能や情熱がある人にチャンスを提供できたらうれしい。
「坂の上」目指した10年間
――中村さんは青山学院大学出身。1980年ごろ、音楽の聖地だった渋谷で、学生時代を過ごしました。
(大学のキャンパスに近い)表参道は身の丈に合わなくて、渋谷を愛しました。わざと少し遠い渋谷駅から通学しました。
ボーカルの吉田美和も、北海道の池田町から上京したとき、渋谷の道玄坂あたりに住んだ。聞いた話だけれど、吉田は渋谷に住み始めた頃の夜、外から音がして「雨が降っているのだろうか」と耳を澄ませたら、高速道路を行き交う車の音で、驚いたらしい。
当時、ミュージシャンの間で…