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全国公開中の映画「ルックバック」から、主人公の藤野(右)と京本 (C)藤本タツキ/集英社 (C)2024「ルックバック」製作委員会

 全国公開中のアニメ「ルックバック」は傑作です。藤本タツキさんの原作マンガの美点を漏らさずくみ取った上に、グッと情を盛ってくる。脚本とキャラクターデザインも手がけた押山清高監督の演出は、きちっとオーソドックスで、ベタになるのを恐れずツボをついてきます。マンガ家の藤本さん、マンガを描く主人公、アニメーターの押山さん、絵描きの思いが響き合って溶け合って、亡き人の思いを背負って机に向かう主人公の背中のラストカットにはエンディングテーマとして鎮魂の聖歌を重ねる。お見事でした。

 原作は、コミック配信サイト「少年ジャンプ+」にて2021年7月に発表され、初日で閲覧数250万以上を記録した中編。ただ、「精神障害の描写がステレオタイプだ」などと批判を浴びた「通り魔殺人」のくだりを、同年9月に出た単行本版(全1巻)では修正したので、アニメが基にしているのはコチラでしょう。以下で比較する「原作」も単行本版を指します。あ、ネタバレありです。

 まずはストーリーのあたりさわりない説明から。学年新聞で4コママンガを連載し天狗(てんぐ)になっている小4の藤野(声・河合優実さん)は、不登校の同級生・京本(吉田美月喜さん)が新聞に寄稿したマンガの画力の高さにショックを受け、絵の猛勉強を始める。しかし、追いつけないと思い知り6年の途中でマンガをやめる――。

 配られた学年新聞を見て大ショックの藤野からポンとカメラが引くと、同じ教室に並ぶたくさんの同級生の中に埋もれていきます。これは原作にないカット。更にカメラが引くと、あり得ないほどたくさんの机が並ぶ大教室に。アニメらしい面白い誇張と言えばいいでしょうか。田んぼの中を行く帰り道、原作にさりげなくはさまれた田植え機の1コマも、アニメではちょっとだけ長めに見せていて、「ひとつひとつ、地道な作業が大事」と主人公が気づくキッカケなのだということがよく分かります。

写真・図版
映画「ルックバック」から、自室で机に向かう藤野

 ここから原作は、自室の机に…

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