Smiley face
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武川健太さん

 道なき道を登り、雪山でじっと待つ。

 山形新幹線の車窓から尾根筋に鉄塔が見えた、その場所だ。「あそこからなら絶景に違いない」。グーグルマップにピンを打ち、晴れた日を狙って、朝から粘る。

 電車は時刻表通りに来るけれど、思い通りに撮れることは、めったにない。太陽の加減、空気の澄み方……。

 また次を待つ。

 ふと、電車と目と目が合った気がする。「おい、撮ってくれよ!」と、気持ちよさそうにこっちに走ってくる。

 そんな一瞬を、武川(むかわ)健太さん(32)は追い続けている。

「東京へ行かせて」 ホームで撮りまくった

写真・図版
秋田新幹線 角館~大曲=武川健太さんの作品から

 宮城県登米市の農村地帯で生まれた。

 くりこま高原駅まで連れて行ってもらい、びゅんと、東北新幹線が通過するのに興奮した。鉄道図鑑を飽かず眺める子どもだった。

 中学の3年間、不登校になった。小学校ではずっとクラスのムードメーカー。その役を演じるのに、疲れ果てていた。

 家族とも口をきかず、部屋に引きこもった時期もある。生きているのがつらくて、つらくて、でも電車はずっと好きだった。

 2年の夏、一眼レフカメラを貯金で買い、母親に告げた。「電車を撮りに東京に行かせて」

 日帰りならと、許しが出た。JR山手線、京浜東北線、中央線……。駅のホームで右を向き、左を向き、ひたすらシャッターを切った。

ノートに書き出してみた 選択肢2つ

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停車する新幹線と200キロで通過する2本の新幹線 山陽新幹線 徳山駅=武川健太さんの作品から

 次の日、通っていたフリース…

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