立ち上がりから一力遼名人(28)は精彩を欠いていた。
第50期囲碁名人戦七番勝負の第1局。自分の勢力圏に打ち込んできた芝野虎丸挑戦者(25)の白石を攻め立てるも、空転した。
解説の本木克弥九段は「いつもの一力さんではない。変調と感じます」と首をかしげた。
逆に相手勢力圏への深入りをとがめられ、続けて打たず他に転じた。仕掛けたものの継続手が見つからず、戦場を放棄したかのような打ちぶりに映った。
しかし名人はあきらめていなかった。
鮮やかな逆転劇を演じて見せた。
図1 黒1が勝負手。死んだふりをしていた一団を担ぎ出した。黒3以下9と中央の黒石への連絡を図るが、挑戦者は白2以下10と行く手を阻む。
一連の手順は先にAIが示していたが、黒の勝率は振るわず、検討陣は「やけくそだろう」と却下していた。それが実戦で現れたのだから大騒ぎだ。
包囲された黒の運命やいかに。検討陣が真剣に調べ始めると、白が仕留めるには一筋縄にはいかないことがわかってきた。「さすが」「すごい」。評価は一変した。
図2 黒は白の包囲網を破り…