俳句時評 岸本尚毅
朝刊歌壇俳壇面で月1回掲載している、俳人・岸本尚毅さんの「俳句時評」。今回は、今年の蛇笏賞に決まった三村純也さんの句集を取り上げます。
今年の蛇笏賞に決まった三村純也「高天(たかま)」(朔(さく)出版)に〈雪ちらとバレンタインの日なりけり〉という句がある。
この表現はよくある。サンプルとして俳誌「ホトトギス」一九九八年六月号を調べると、「義理果たすバレンタインの日なりけり」のような句が十数句あった。このほか「妻と娘に」「厨(くりや)に娘」「品選ぶ」「縁薄き」「無視できぬ」「まなざしの」「気がねなき」「夢かなふ」「ほろ苦き」「面映(おもは)ゆき」など。多くの句は「バレンタインの日なりけり」の上五に、バレンタインデーに関わる人の様子や心の動きをそのままの形で詠みこんでいる。
ところが「雪ちらと」は異例…