暑い! ネタも夏枯れなので「暑い映画」とでも題して書こうかと思い茹(う)だった脳みそを絞ったら、出てきたのは「機動警察パトレイバー the Movie」「砂の器」「野良犬」。あれ? 俺にとって「暑い」とは刑事(デカ)が汗ダラダラで歩き回るシーンのことなのか。でも見返してみたら、いい「街」の映画でした。「戦後復興」「高度成長」「バブル」の風景論、とカッコつけてもいいか。今回はそんな、ダラダラしたお話です。
1989年(昭和の終わった年)公開の通称「パト1」は本欄でもおなじみ押井守監督のアニメ。人型作業用ロボット「レイバー」の基本ソフトにウイルスを仕込んで自殺した天才プログラマー帆場の足取りを追い、ベテランの松井と若い片岡、2人の刑事が真夏の東京を歩き回ります。一連のこのシーンの主役は風景。押井さん一流の都市論になっています。制作時に押井さんがロケハンしたであろう足取りを、実は私も10年前、そのまま追って歩いたことがありました。2014年4月5日の朝日新聞朝刊別刷りbe「NIPPON 映画の旅人」欄で「パト1」を取り上げた時の取材です。
参考図書は「パト1」絵コンテと、押井さんが参照した「昭和二十年東京地図」(筑摩書房)と「路上観察学入門」(同)。中央区の日本橋川から頭上を走っている首都高を眺め、お茶の水の聖橋から昌平橋あたりの神田川沿いを歩き、サンシャイン60を奥に望む東池袋のゴチャゴチャした街をウロウロ。映画で「消えていく風景」として描かれていた街並みはその時、既にほとんど消失していましたが、味わい深い面影をとどめていたのは渋谷駅近くの渋谷川でした。間口の狭い飲食店がぴったりくっつきあって並んでいるその煤(すす)けた裏側を、コンクリで固めた汚い川に向けてさらしていて「ああ、ここらは昔、闇市だったんだろうな」と想像させます(今は「渋谷リバーストリート」なんてものが出来てキレイになってしまいましたが)。
高度成長期の建物、敗戦直後…