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名古屋高等裁判所

 建設機械メーカー・コマツの湘南工場(神奈川県平塚市)に勤めていた30代の男性社員の自殺をめぐり、男性の父親が労災保険法に基づく遺族補償と葬祭料の不支給処分を取り消すよう国に求めた訴訟の控訴審判決が26日、名古屋高裁であった。長谷川恭弘裁判長(朝日貴浩裁判長代読)は、自殺は業務に起因する労災と認定。平塚労働基準監督署の不支給処分を取り消すよう国側に命じた。

 控訴審判決によると、男性は2019年に自殺し、遺族側は上司によるパワーハラスメントなどにより、うつ病などを発病し自殺したとして、平塚労基署の処分取り消しを求めて提訴した。一審・名古屋地裁判決は、業務とうつ病に因果関係はないなどとして遺族側の請求を棄却した。

 一方、控訴審判決は、「上司から他の従業員の面前で威圧的な叱責(しっせき)を受けることが反復・継続してあった」などと指摘し、上司によるパワハラを認定。自殺前日の別の上司との面談では、男性が「仕事の量が多く短納期で成果を求められる」「死んで責任とればいいんですか」などと口にしていたことも指摘した。

 こうした言動について、控訴審判決は「明らかに異常で極めて深刻」とし、同社には男性の心身のために適切な対応をする義務があったと言及した。だが実際は、面談後に上司間で男性の不調について共有されただけで、パワハラは改善されないまま男性は強い心理的負荷を受けてうつ病などを発病し、自殺したと認定。不支給処分を「違法」と認め、一審判決を取り消した。

 男性の母親によると、この日は男性の月命日。原告の代理人によると、同社の調査報告書で男性の自殺は業務上災害として認定されず、規則を「準用する」形で見舞金が支払われたという。父親は「長くかかったが、やっと無念の思いを晴らすことができた。家族は息子を亡くした悲しみから逃げられないが、判決はありがたく感じている」と話した。

 平塚労基署長は「判決の詳細を確認して、今後の対応を検討する」、コマツは「訴訟の当事者ではなくコメントできない。労働環境の改善を最優先し、再発防止に努める」とした。(渡辺杏果)

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