「内密にお願いします」
北海道北東部、遠軽町で種苗業を営んでいた佐々木昌太郎さん(享年63)が、政府から北海道を通じてそう言われたのは1972年、日中国交正常化の3カ月前だった。息子の雅昭さん(80)が明かす。
中国との国交正常化をめざしていた政府が、友好の証しとして、日本を代表する花である桜の苗木を贈る。その準備をしてほしいとのことだった。
北京の気候に近い北海道で育った苗木が適しているのではないかと、昌太郎さんに白羽の矢が立った。
昌太郎さんはカラマツなどの苗木作りで農林大臣賞(当時)を受賞したこともあった。だが、桜の苗木を販売したことはない。海外に輸出するのも初めてだった。注文数は1千本。国を代表する品に失敗は許されない。緊張に満ちた依頼を父は引き受けた。
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