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写真・図版
ピアニストの中川優芽花=2025年、東京都内、吉田純子撮影

 新種の植物が芽吹く瞬間を見ているかのよう。どんな名曲からも未知の響きを引き出し、驚かせる。ドイツに生まれ育ち、欧州でピアニストとしての歩みを着実に進めている中川優芽花が、日本での活動も本格化させている。

 ショパンの陰影豊かな叙情を描く繊細さに、スクリャービンの壮大な物語を語り切る胆力。表現の幅は底知れない。大好きなモーツァルトでは、魚がしぶきを上げて水面を跳ねるかのようなみずみずしい即興精神がはじける。

 「戦争の時代を生きていた人たちの感情が、音楽にくっきり刻まれていると感じることがあります。物からは伝わらない息遣いのようなもの。それを今を生きる人たちにそのまま伝えられるのが芸術であり、音楽だと思います」

 2001年、デュッセルドルフ生まれ。同地のロベルト・シューマン音楽大学、ロンドンのパーセル音楽院を経て、21年から独ワイマールのフランツ・リスト音大に在籍中。日常的に話すのは英語とドイツ語だ。

 2歳上の姉の後を追ってピアノを始め、すぐのめり込んだ。でも、練習は嫌いだった。「大事な音は大きな音で弾くようになんて先生に言われると、一気にやる気がなくなってしまって。他にも方法があるんじゃないの、って」

 納得できないまま人の言うなりになる習慣が、自身の心を閉じ込める檻(おり)になると気付いた。

 「目標を持たないと練習しな…

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