海外に出張して時間が空くと、好んで地下鉄に乗りこむ。その国の素顔みたいなものが見える気がするからだ。

 古くは韓国で、座っていた私のひざに押し売りの歯ブラシが置かれて驚いた。メキシコでは楽器を抱えて歌い歩く3人組からチップを求められた。米国では笑顔で歩み寄ってきた男性に胸ポケットから愛用のペンを奪われたこともある。

 比べれば、日本の電車はそこそこ安心である。痴漢の被害はなお深刻ながら、居眠りしてもスリに遭う不安はさほど大きくない。しかも静かだ。その反面、外国とは別種の緊張を強いられる。ささいなことで周囲の乗客たちからひんしゅくを買うのではないかという心配からだ。

 「たしかに日本の電車マナー…

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