野山にウグイスの鳴き声が響く季節。「ピルルルルルケッキョケッキョ……」。雄が繁殖期に発する特徴的な「谷渡り鳴き」は、天敵などの存在を仲間に知らせるための警報だと考えられてきたが、雌へのアピールではないかという新しい仮説が打ち出された。
提唱したのは国立科学博物館の浜尾章二・名誉研究員(行動生態学)。動物学の専門誌に発表した。
ウグイスといえば、雄が「ホーホケキョ」と鳴くさえずりが有名だが、長ければ1分以上続く「谷渡り鳴き」も知られている。人が急に姿を現した時や、タカが飛んでいる時などに聞かれることを、多くのバードウォッチャーらが経験しており、従来は危険を知らせる警報だろうと言われてきた。
だが、危険を知らされた仲間が本当に身の安全を図っているのか。谷渡り鳴きした雄にとっては、鳴かない方が自分の存在を知らせず、むしろ安全なはずなのに、何の得があるのか。実態はよくわかっていない。
浜尾さんは1990年からウグイスの繁殖や生態を研究してきた。繁殖期の雌は「チーチー」と弱い甘い声を出すが、その直後や雌がよくいるところで、雄が谷渡り鳴きをしているのではないかと経験的に感じていた。
そこで、雌が近くにいるときに雄が実際に谷渡り鳴きをしているのか。鳴き声を聞いた雌は何をしているのか、本格的に調べた。
調査場所に選んだのは、ウグ…