ピンチをしのいだ次の攻撃で得点機が訪れる。連打はさらに安打を呼ぶ。スポーツでよく語られる試合展開の「流れ」は、偶然なのか、必然なのか――。
藤枝東の捕手、狩野拓真さん(3年)ら野球部員6人は、この二つの仮説を検証しようと試みた。昨年末から休み時間などを使い、昨夏の静岡大会全107試合のデータを「バーチャル高校野球」から抽出、表計算ソフトを使って分析した。
すると、ピンチを無失点で抑えた次の攻撃は、ほかと比べて複数点が入りやすくなっていた。
2連打した後の3人目、3連打した後の4人目の打率は、平均より高いことも確かめた。ピンチを抑えた後や連打により、試合の流れをつかむことができている、と結論づけた。
春の県予選、分析結果に沿った試合展開に
今春の県予選初戦は、この結論に沿うような試合展開になった。甲子園出場経験のある常葉大橘に4点をリードされて迎えた七回の守り。2死二塁で追加点のピンチをなんとか切り抜けた。その裏の攻撃で2四球と4安打を集めて一挙4得点を挙げ同点に。6―5で逆転勝ちした。
七回裏の攻撃に入る前、分析結果を思い出した部員たちに自信が生まれた。「流れがよくなる回だ、点とるぞ」
この試合で3投手をリードした狩野さんは、配球に手応えをつかんだ。「流れは自分たちでつくり出すものなんだ」と実感した。
大石泰広監督(51)は、勉強と両立しながら高校で燃え尽きることなく大学でも野球を続けてほしい、と願っている。新入部員に対し、走者やボールカウントなどが組み合わさった様々な状況の意味を考えてみて、と問いかける。
ストライクとボールのカウント12通り、アウト数3通り、走者がどの塁にいるかで8通り。全てかけ合わせると288のパターンになる。では、それぞれの場面で有利なのは投手か、打者か。自分はどうしたらいいか。先読みして考えるよう促す。
288はひとつの例で、ちょっとした刺激を与えることで、「野球は面白い」「もっと知りたい」という探究心を引き出そうというねらいがある。練習時間は短くても考えを深めて準備や予測をすることで「強豪に負けないだけの力をつけることができる」と大石監督は考えている。
これまでにない刺激に、部員たちも目覚めた。狩野さんは「考えてみればそうだけど、中学の時は考えたことはなかった。具体的に数値化して考えるのは面白い」と話す。
藤枝東は昨年から、全国の高校生が野球について分析した結果を発表する「野球科学研究発表会」にエントリーしている。今年は2月、野球の流れに関する研究に加え、チームの現2、3年15人全員のスイングを分析し改善する研究をオンラインで発表した。
ピンチでも冷静に。どんな展開でも、自信を持って挑もう。初戦は6日、伊豆伊東と対戦する。めざすは過去最高に並ぶ8強だ。