ロシアと1340キロの国境線を有する北欧フィンランドが揺れています。オルポ首相は4月、対人地雷の使用や製造などを全面的に禁じた対人地雷禁止条約から脱退する方針を表明しました。岡田隆駐フィンランド大使は「危機に備えながら豊かな国をつくってきたフィンランドから学ぶことは多い」と語ります。
- フィンランド大使館で配られた紙袋…中には毛糸玉 込められた決意は
なぜ、対人地雷禁止条約からの離脱を決めたのか
――なぜ条約から脱退するのですか。
対人地雷は操作が簡単なうえ、安価で効果的な兵器です。長大なロシア国境を徴兵制の兵士で守らなければいけないフィンランドでは対人地雷は必要との声がもともとありました。2012年に条約に加盟した時には「欧州で大規模な陸上侵攻が再び起こる可能性は低い」という認識から加盟に踏み切りました。
しかし、22年2月のロシアによるウクライナ侵攻で、欧州の安全保障を巡る状況は大きく変わりました。フィンランド国防省は現在の安全保障環境下での防衛装備を見直し、対人地雷の復活を要請しました。政府内には「国際社会の軍縮努力に水を差す」「国際協調や人道面で非常に大きなマイナス」という議論もありましたが、熟慮の末に結論を出したようです。国会の承認が必要ですが、支持は過半数を占めているとみられます。世論調査でも「脱退はやむを得ない」と考える国民が多数という状況です。
旧ソ連との2度の戦い、「手足を切って胴体を守った」
――フィンランドは旧ソ連と冬戦争(1939~40年)、継続戦争(41~44年)を経験しました。
その結果、フィンランドは領土の1割を失い、巨額の賠償金を負いました。冷戦時代はソ連と良好な関係にない政治家はフィンランドの指導者になれないなど、事実上の内政干渉も許しました。
しかし、2度戦ったからこそ、ソ連に占領されず、独立を守ることができました。冷戦中も仮想敵国ソ連からの侵略に常に備えていました。フィンランドの人々は「手足を切って胴体を守った」と表現します。
フィンランドはロシアに対する強い警戒感と不信感を持っています。91年のソ連崩壊後、欧州諸国は軍備を大幅に削減しました。ドイツやスウェーデンはその際に徴兵制も廃止(スウェーデンはその後復活)しましたが、フィンランドは維持しました。レオパルト2戦車やF18戦闘機も購入しました。
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