学校全体で生徒の自主性を重んじるユニークな取り組みをし、野球部でも特色ある活動をしていると聞き、西武文理(埼玉)を訪ねました。
野球部では、佐藤圭一監督(47)が「社会で通用する選手を育てたい」と、「基本考動」「役割分担」「ミーティング」「野球ノート」の四つを柱にしたグランドデザインを作成。それを元に、選手が練習メニューなどを考えて活動しています。
「役割分担」では、あいさつ、道具、打撃、バント、食事、学習、私生活など20以上の分野の「長」を中心に練習方法などを考えています。また、日々の振り返りを野球ノートにつけ、選手同士で交換するなどしてコミュニケーションを図っています。
打撃長の小室暁(あかつき)選手(2年)は「選手それぞれの特徴に合わせて練習方法を考えるなどしている。『お前のおかげで打てた』と言われるとうれしい」と話します。
鈴木広志朗主将(同)は「中学までは、指導者にやらされている、という感じだったけど、高校では自分からやろう、という気持ちが大切だと感じた」。小さなことでも任されると責任感がわき、成功させるために試行錯誤するようになります。それを主体的にできているのに感心しました。
この野球部の取り組みの後押しとなったのが、約2年前に就任したブラジル人のマルケス・ペドロ校長(39)。それまであった校則を廃し、生徒自身に決めさせるなど、生徒の自主性を重んじる方針を打ち出しました。
生徒が学び、考え、解決策を見いだす力を養うことを目標に、学校のウェブサイト作成や制服のデザイン、ドラマや映画撮影の誘致などのプロジェクトに生徒が取り組んで、「生徒が作り上げる、生徒の手で成り立つ学校」を目指しています。
佐藤監督は「失敗も成功もリアルに学べる環境を与えてくれるのはありがたい」と言います。
「人工知能(AI)技術が発達する世の中で、スポーツや芸術の需要は高まる」とペドロ校長。「スポーツは、ミスも多い人間がやるから面白い。AIが普及すればするほど、人間にしかできないスポーツや芸術は伸びる」。AIが提供することのできる結果ではなく、失敗も含めた過程を重視する方針において、「それを学べるスポーツは大事な柱」と話します。
校長が強調するのが「甲子園に行きたい」ということ。2014年に甲子園で観戦し「高校の試合を見にいくと聞いていたけど、行ってみたらプロの試合のようでビックリした」と振り返ります。そして「甲子園はスポーツの世界を超えている。出場は歴史に名を刻むほどの価値がある。野球のことをよく知らないブラジル人の僕でも分かる」と力を込めます。
今後は設備面も整えるなどして、「甲子園に出場するまであきらめません」と宣言してくれました。
教育に、スポーツに、熱い思いを伺いました。ブラジル人校長に「甲子園」の価値を再認識させてもらい、うれしくなりました。