第107回全国高校野球選手権大会(朝日新聞社、日本高校野球連盟主催)は23日、沖縄尚学の優勝で幕を閉じた。全国3396チームが参加した今大会で、元プロ野球選手が監督となり、廃部から復活して再出発したチームが道南にある。
森町の森高校。4年前に部員不足で廃部になった。森町出身で元プロ野球オリックスでプレーした吉田雄人さん(30)が今春、監督に就任。新入生4人が入部した。
この夏は八雲高との連合チームで出場。初戦で完封コールド負けした。「野球はそんなに甘くない。分かっていたこと」。吉田監督はそう振り返りつつ、部員の成長も感じたという。
夏の大会を目前にした6月。練習を見守る吉田監督は、「うちはキャッチボールもまだまだ」と話していた。
駒ケ岳を間近に望む、広々とした森高校のグラウンドにはボール回しをする部員4人と監督だけ。全校生徒75人の森高校で、グラウンドを使う部活が他にない。
しっかり捕り、素早く投げるシンプルな練習だが、送球も捕球もスムーズにいかず、球際に弱い。吉田監督は何度も「もう一回」と繰り返していた。
4人の1年生は、いずれも町外の出身。三上陽斗主将は札幌市出身だ。ネガティブな自分を変えたくて主将に立候補したという。
三上主将はこの夏、中堅手で出場。打球を捕りきれず、適時三塁打を許した。しかし、その回に再び中前に飛んだ打球を、ギリギリの球際でスライディングキャッチ。試合中継で「ファインプレー」と実況された。
チームは秋季大会での初勝利に向け、再び白球を追う日々だ。吉田監督は、勝敗だけにこだわらず「野球を楽しんでほしい」とも話す。
吉田監督は北照高校で春夏計3回甲子園に出場。高卒後、ドラフト5巡目でオリックスに入団した。
しかし、プロのレベルの高さに苦しんだ。1軍公式戦でわずか1安打。5年目を終えると戦力外通告を受け、2018年に引退した。
「野球と距離を置きたい」と別の仕事をしていたが、2021年にオリックスがリーグ優勝。そのとき吉田監督は「自分の野球人生は失敗だらけだったけれど、もう一度、野球で何かを成し遂げたいと思った」。
北海道に戻り、母校の北照でコーチに。地域おこし協力隊の制度を使い、25年に森高校の監督になった。
吉田監督は、初めて監督として夏の高校野球を経験し「一つの目標を決めて切磋琢磨(せっさたくま)し合うことは、勝ち負けを越えて大事なこと」と、改めて感じたという。そして、こう続けた。
「人生はずっと続くので、野球を通して何を得るのかが一番大事だと思います」
挑戦は始まったばかりだ。