社会学者の朴沙羅さん

■朴沙羅さんの「欧州季評」

 日本ではまだ学期途中だが、フィンランドの学校は小学校から大学まで、6月から夏休みに入った。

 私はヘルシンキ大学で日本文化・日本社会について教える授業を担当している。日本文化論の古典を読んだり現代日本の抱える課題を議論したりするが、今年の春学期には、在日外国人や日本の出入国管理政策に関する授業をした。そのうちの1回で技能実習制度について触れ、これまで技能実習生が妊娠や出産を理由に解雇されたり帰還させられたりしたことや、実習生がそれを恐れて妊娠や出産を隠したことがあると言った。

 すると、フィンランドで生まれ育った学生たちは「ありえない」「働く人間はロボットじゃないんだから、出産することもあるでしょう」「なぜ妊娠や出産のような、当たり前のライフイベントを考慮しないで制度を設計できるのですか」と、この制度設計を笑った。

 私は彼らの笑いに驚いたが、その教室に笑っていない学生たちもいることに気がついた。日本から来た交換留学生たちだった。彼らは、他の学生たちを不思議そうに見ていた。もしかすると交換留学生たちは、他の学生たちが何を笑っているのか理解できていないかもしれないと思った。それで私は日本から来た学生たちに向けて、「皆さんは、この『想定していない』ことをおかしいと思わないでしょう。私も笑われるほどおかしいとは思っていませんでした。だから今、私もショックを受けています」「きっと、日本に住んで働いている人の大半は、私自身も含めて、当たり前の権利を知らないか、権利を守られない時があっても仕方がないと思っているのでしょう」と言った。

 授業のあと、私はしばらく落…

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