取材考記 くらし科学医療部・森本美紀

 入院中心から地域ケアへ――。精神医療改革を進めるベルギーを昨秋、精神科医やソーシャルワーカーらと訪れた。日本では、望まないのに精神科病院で長期入院する人たちがまだ多いとされる。精神疾患のある本人のニーズを起点にしたケアをどうすれば実現できるのか。改革が何をもたらしたのか知りたかった。

 ベルギー北部の精神科病院の「モバイルチーム」で働く女性、リーズベス・フェルメーレンさん(47、取材当時)は、「専門職の仲間と対等に知識を共有し合えることが喜び」と話した。「モバイルチーム」の導入は、ベルギー政府が2010年に始めた改革の柱の一つ。精神科病院の精神科医やソーシャルワーカーら多職種のチームが、退院後に地域で暮らす人らの自宅を訪ねる。対話を重ね、必要な支援を提供し、生活全般を支える。

私が私であるために~ベルギーの精神医療改革

日本と同じように、精神科医療を多くの民間病院が支えているベルギー。「本人中心」の理念をもとに地域医療へと軸足を移し、長期の入院を減らそうとしています。どんな取り組みなのでしょうか。日本の医療・福祉分野の関係者とともに現地を訪ねました。

精神科病院で入院した経験、現在の地域生活について語るリーズベス・フェルメーレンさん=ベルギー・アントワープ、森本美紀撮影

 フェルメーレンさんは、薬物やアルコール依存で3度入院し、「絶望」したこともあったが、今は病院が募った「経験のある専門家」としてチームに。「訪問して私の経験を分かち合うことで希望に目を向けてくれる。医師に言えないことも話してくれるのは、当事者だからこその安心感や信頼感があるから」と語った。

 フェルメーレンさんとともに取材に応じてくれた病院のケア部門ディレクター、ヨリス・ハウセンさんは「家族や地域の人たちとの関わりのなかで、人はどうすれば立ち直ることができるかを考えられる。病院にいたらできないこと」と強調した。

 「デイケアがあるから絵を描…

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