防衛研究所研究顧問の庄司潤一郎氏

 第2次世界大戦中、ナチス・ドイツがホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を行った最大の施設、ポーランドのアウシュビッツ強制収容所の解放から、27日で80年を迎えました。「ユダヤ人国家」を標榜(ひょうぼう)するイスラエルは今、パレスチナ自治区ガザへの大規模攻撃などで批判を浴びており、欧州では「反ユダヤ主義」にも注目が集まっています。日独の戦後史に詳しい防衛省防衛研究所の庄司潤一郎・研究顧問は「最近の動きは、負の歴史と向き合うことの難しさを教えてくれる」と語ります。

 ――ドイツでも最近、ガザなどでのイスラエルの行動に対する批判が高まり、昨年10月、ドイツのシュタインマイヤー大統領は「ドイツはイスラエルを支持する責任がある。反ユダヤ主義の台頭を二度と許さない」と語りました。

 ドイツで反ユダヤ主義が高まりつつある背景には、外的と内的の両方の要因があるとされています。まず、外的要因としてホロコーストの歴史と関係のない難民のドイツへの流入が挙げられます。特に中東系難民は、イスラエルに厳しい視線を向けます。

 次に内的要因ですが、ドイツ国内の伝統的な反ユダヤ主義です。ドイツの歴史家ミヒャエル・ヴォルフゾーンは、戦後のドイツで(ホロコーストで)亡くなったユダヤ人が政治や社会によって追悼されるのは評価すべきだが、現在生きているユダヤ人の多くはドイツ人によって非難されており、ドイツ社会では反ユダヤ主義がむしろ「常態化・急進化」していると警鐘を鳴らしています。さらに、教育が反ユダヤ主義に対する万能薬であると信じるのはナイーブ(考えが甘い)だと指摘しています。

 ――日本の一部では「負の歴史に向き合ったドイツに学べ」という主張も見られます。それなのになぜ、ドイツで反ユダヤ主義がみられるのでしょうか。

 ドイツも大戦直後は日本と同様に被害者意識が強かったのですが、1960年代くらいからホロコーストの問題が本格的に取り上げられ始め、教育の現場でも徹底的に扱われました。ただ、それに対する反発や疑問の声も生まれています。

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