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ボクシングで導入された性別検査について説明する日本ボクシング連盟の仲間達也会長

 オリンピック(五輪)競技を中心に、性別検査を導入するスポーツ団体が増え、波紋が広がっている。

 アマチュアボクシングの統括団体ワールド・ボクシング(WB)は、9月の世界選手権(英国)で女子部門に出場する選手に性別検査を義務づけた。日本ボクシング連盟によると、日本代表の選手らはすでに検査を終え、当初の予定通り派遣されるという。医師でもある日本連盟の仲間達也会長に手順や問題点などを聞いた。

 ――WBからはどんな通達がきたか?

 WBは5月に性別検査を導入すると発表していた。正式に日本連盟に文書が届いたのは、7月21日。「『性別・年齢・体重』資格規定に基づく必須検査のお知らせ」という題の書簡だった。

 WBの大会に出場する18歳以上の選手は、PCR検査で、性分化の起点になるとされる「Sry遺伝子」の有無を調べることにより、遺伝的な性別を確認することを義務づける、という内容だった。

 WBは、Sry遺伝子が確認された場合は男子カテゴリーに出場可能、Sry遺伝子が存在しない場合は女子カテゴリーに出場可能、性分化疾患でも男性化が生じない場合も女子カテゴリーに出場可能、としている。

 競技の安全性確保の影響が大きい女子は、9月の世界選手権から検査結果の提出を義務づけ、男子は来年から義務づけるということだった。

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 ――どのように受け止めるか?

 たくさんの問題を抱えている。

 私はWBの医事委員長に問題点について、書簡を送った。

 第一にこの検査は、世界中の国で実施可能なのか、ということ。

 そして、大事な点は、染色体情報は秘匿性が極めて高い個人情報ということだ。日本で遺伝子検査を受ける場合は、メリット、デメリットを含めて専門医が事前にカウンセリングを行う。

 その周知を十分にしないまま、試合に出る条件として検査を迫るやり方は、乱暴過ぎる。

 女性として生きてきた方が、いきなり、違う性を突きつけられる可能性がある。アイデンティティーの喪失につながる。

 また、国際大会を欠場することによって、周囲が「遺伝子検査の結果では」と容易に推定される。社会的なアイデンティティーの喪失にもつながる。

 しかも、混入による偽陽性や、Sry遺伝子があっても発現しないケースは、一定の確率である。

 こうした問題の対応策を示さずに中央競技団体(NF)に丸投げは、ありえない。

 ――検査結果の管理は?

 誰が管理するのか、という問題もある。WBの事務局がこの極めて秘匿性の高い情報を管理しきれるのか。また、誰が結果を送るのか。NFの事務局の誰がその役割を担うべきなのか。

 これらについて、WBは何も考えていなかった。

 いずれにせよ、大会が迫っている中で、対応するための時間があまりにも短かった。

 ――どのように対応したのか?

 国立スポーツ科学センター(JISS)に相談して、遺伝子専門医を紹介してもらった。検査もJISSで実施してもらうことになった。

 今回は女子だけが義務づけられたので、選手5人とバックアップメンバー1人の6選手に対して、文書を送った。検査の内容、実施時期、なぜ検査を行うのか、先述したような検査による不利益や検査結果の取り扱いが不透明な点も明示した。検査による利益も記した。Sry遺伝子を持たないことが確認されれば、WBが主催する大会女子競技への参加が可能になること、二度と検査をする必要がないことくらいだが。

 ――選手からはどんな反応があったか?

 「受けない選択肢はあるか」という問い合わせもあったが、「世界選手権に出場するには受けるしかない」と説明すると、「仕方ないですね」と。基本的に、女子選手にとってはネガティブなリスクしかない検査だから、当然の反応だと思う。最終的に全選手が検査に同意した。8月上旬、JISSで専門医からの事前説明、個別の質疑のあとで、検査を行った。結果が出るまで約2週間。

 すでに結果は出ているが、当…

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