Smiley face
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鴨治晃次さん
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 ミニマルで静かな表現の中に、どこか水気を帯びた情緒がにじむ。鴨治晃次(かもじこうじ)さん(90)は1959年にポーランドへ移住し、ポーランド現代美術の流れを形成した作家のひとりとして、60年以上にわたり制作を続けている。その日本初となる個展が、東京・ワタリウム美術館で開催中だ。

 アルミニウム板や金属棒、石や砂、ざくざくと穴をうがたれた合板。物質性が強調された絵画や壁面彫刻は、美術館の少し癖のある壁や天井と調和し、詩的な空間を作り出している。

 武蔵野美術大学で学び、翻訳家の伯父の影響で留学。商社や新聞社の通訳として生計を立てるかたわら、今日では伝説的な画廊となったフォクサル・ギャラリーを拠点に活動した。日本の現代美術の動向には雑誌を通して触れていたが、直接交流することはなく、あくまでもポーランドの作家として高く評価されてきた。

 ポーランド美術に詳しい加須屋明子・京都市立芸術大学教授は、鴨治さんの初期作品には戦前から続くポーランド構成主義の影響が見られるとしつつ、「日本の禅的な哲学を取り込み、より静謐(せいひつ)で瞑想的な作品へと深化した」と指摘する。水や石、和紙といった物体そのものに向き合う態度からは、日本のもの派に通じる美意識も垣間見える。

 たとえば、「静物」と呼ばれ…

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