「王者の挑戦 『少年ジャンプ+』の10年戦記」(集英社)

 マーケティングや広告よりも「面白いマンガ」が客を呼びこむ最大の力になり、そのために必要なことは「手数を出す」。つまり数撃ちゃ当たる。結論としては平凡、いや「王道」と呼ぶべきでしょう。先月刊行の戸部田誠(てれびのスキマ)さんによるノンフィクション「王者の挑戦 『少年ジャンプ+』の10年戦記」(集英社)を読みました。王者が新事業に挑戦してその世界の王者になる道筋なんだから、やっぱり王道です。

 本書の「はじめに」で、こんなやりとりが紹介されています。テレビや芸能関係のライターである戸部田さんが、取材執筆を依頼してきた編集者に「集英社から出すと言うことは、公式本のような位置づけになるのですか?」と問うと「違います。だからこそ、“外部”にいる戸部田さんにお願いしたいんです」。

 確かに、成功物語ではありますが、登場する編集者や作家の踏み込んだ人物評、大型プロジェクトの失敗、社内の軋轢(あつれき)なども書いてあって、「公式本」的な取り澄ました感じはありません。ホントはもっと「書けない話」があるのかも知れませんけど。

 新聞社としては割と早くからウェブ版に力を注ぎ、私自身もウェブ版の記者や編集者を経験し、ウェブ版独自のコンテンツと期待されてこのコラムを毎週書き続けて17年半、しかし朝日新聞社が「王者」かと言うとそうでもなく……。なので2014年9月に創刊されたマンガアプリ「少年ジャンプ+」が大ヒットを連発している成功の秘訣(ひけつ)とはなんじゃらほい?と本書を手に取ったわけです。

 助走、誕生前夜、スタートダ…

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