Smiley face
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中島京子 お茶うけに

 「小さいおうち」で直木賞、「やさしい猫」で吉川英治文学賞などを受賞した小説家の中島京子さんが、日々の暮らしのなかで感じるさまざまなことをつづる連載エッセーです。

我が家にフランス人の少年が三人やってきた。

 わたしの姉はフランスで日本語の先生をしている。この夏、姉が日本に里帰りするのと同じ時期に、高校を卒業したばかりの彼女の教え子が東京にやってくるという。学校の第三外国語で日本語を選択しただけで、そんなにペラペラしゃべれるわけではないし、なにしろ初めての日本滞在だ。姉も、東京の交通機関の使い方などに慣れるまで少し心配だったのだろう。最初の二日間だけ、三人は我が家にホームステイすることになった。

 「食べられない食材はありますか?」という、こちらの典型的な質問に、迎えの車の後部座席に座った双子は、とても礼儀正しく「ハラール以外のものはだめです」と答えた(あとのひとりはアレルギーの出るピーナツを避ければ大丈夫とのこと)。

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画・谷山彩子

 ハラールとはイスラム法で許されたもののこと。双子はムスリムだったのだ。厳格なイスラム教徒で、ハラールの方法で食肉処理されたものでないと、鶏肉や牛肉でも食べないという。わたしにはひとり、陽気なムスリムの友人作家(この人もフランス人)がいるのだが、豚肉以外は平気でなんでも食べていた彼はちょっとゆるい信徒らしい。

 そういうわけで、歓迎会の夜…

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