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リビアのデルナで建設中の新しい橋の一つ(遠景)=ニューヨーク・タイムズ

A Year After a Deadly Flood, a Libyan City Is Rebuilding but Not Whole

 地中海沿いの遊歩道、漁師、鮮やかな色の海に面したシーフードレストランで有名なこの都市で、人々は海を恐れるようになった。

 1年前、北アフリカのリビア東部デルナ市の大部分を泥まみれの廃虚と化した大洪水で、一体どれだけの数の遺体が海に流されてしまったのかは誰にも分からない。強烈な嵐で山中の老朽化したダム2基が決壊し、洪水が市街地を襲ったのだった。死者数は公式発表では約4千人だが、住民やリビア当局によると、さらに数千人が行方不明のままである。この痛ましい数字は、大惨事の原因にもなり、緊急対応の妨げにもなったと住民やアナリストたちが指摘する、機能不全を浮き彫りにするものだ(訳注:ダム補修の予算は暫定政府に承認されていたが、補修されないまま放置された。配分された予算は汚職で消えたと言われている)。

「もう魚を食べられない」

 「釣りが一番の趣味だった」とモスタファ・サイードさん(54)は語った。「今は海も、海に関わることもすべて避けている。海には遺体がたくさんあるんだ。魚に食べられている姿を想像してしまい、もう魚を食べることができなくなった」

 洪水は、サイードさんの妻と3人の娘、2人の息子のうちの1人を、彼らが避難していた屋上から引きはがして流し去った。たまたまサイードさんは、近所の人を助けようと階段を駆け下りていたため、建物で大波から守られ、生き延びた。家族の遺体を見つけることはできなかった。彼の唯一の望みは、近隣の復旧にあたる作業員が、ゆかりの品を何か見つけてくれることである。

 デルナの中心市街地ではどこでも、ハンマーや重機の音が響き渡っている。オレンジ色のベストを着た作業員たちが、破壊された町の再建に当たっているからだ。

 昨年9月、洪水はデルナを貫く谷に流れ込んだ。東西を結ぶ三つの橋は流失し、東側でも西側でも建物が破壊された。被害状況を報道しようとする外国人ジャーナリストはたくさんいたが、当局は現地入りを禁じてきた。しかし、洪水から1年になるのを機に、ニューヨーク・タイムズと他の報道機関を復興作業の取材に招いた。

  • 【注目記事を翻訳】連載「NYTから読み解く世界」

リビアのデルナを襲った大洪水から1年。破壊された市街地では復興工事が急ピッチで進む一方、家族を失った人たちの心の復興は同じようにはいかないようです。NYTの記者が現地入りしてリポートします。

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デルナの海辺で新しい橋を建設する作業員たち=ニューヨーク・タイムズ

 今、ほこりにまみれた谷底か…

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