飯田洋輔さん。建て替えのため2月末で休館した東京・日比谷の帝国劇場ロビーで=関口聡撮影

 劇団四季に入団して5年目のとき、ミュージカル「美女と野獣」のビースト役に抜擢(ばってき)された。その公演初日、開演10分前に浅利慶太さんからかけられた。「張り切って並に」。緊張と重圧。初主演で「自分ががんばらないと作品がつぶれる」と気負っていた。その気持ちを見抜かれた。

 舞台の上では怒濤(どとう)の、劇的な、あるいは悲壮な別の人の人生を生きるから、ドラマの中に身をゆだねて「張り切る」。けれど、稽古で積み上げてきたことを信じて、いつもと変わらず「並に」やれ。そんな風に受け取った。「そこから失敗しても命を取られるわけじゃない、と肝っ玉が据わった気がします」

 その後の舞台人生を支える言葉になった。20年在籍した四季を退団し、昨年、ミュージカル「レ・ミゼラブル」の主役ジャン・バルジャンに選ばれた。日本では初演の鹿賀丈史さん、滝田栄さんから始まり、名だたる俳優が演じてきた大役だ。そこでもこの言葉が生きた。「本当にすごい役。でもその思いが強いと背負いすぎてしまう。みんなで場面をつないで最後までゴールする、そんな思いで舞台に立つ」

 自分の肉体を通して台本や楽…

共有
Exit mobile version