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西村大輔・論説委員
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論説委員コラム「序破急」

 <若者が薬剤師に話しかけた。

 「抗うつ剤がほしいのですが」

 「処方箋(せん)はお持ちですか?」

 「えっ。この召集令状ではだめなんですか?」>

 これは、ウクライナ侵攻に動員されるロシア人の憂鬱(ゆううつ)な心境をユーモラスに描いたアネクドート(小話)だ。

 厳しい言論統制下にあるロシアメディアの報道を見ると、愛国主義的なムードが支配的で、まるで全国民が侵略を進めるプーチン政権を熱烈に支持しているかのように映る。この戦争について、ロシアの民衆が実際はどのように考えているのかを知るのは難しい。

 そんな中で、庶民の本音が垣間見えるのが、ロシア人がこよなく愛するアネクドートの世界だ。帝政時代、ソ連時代を通じて現在に至るまで、表では口に出せない権力者への不満を、風刺をきかせた絶妙なユーモアで笑い飛ばしてきた。

 ソ連時代の定番はこんな感じだ。

<赤の広場で「ブレジネフ(ソ連の最高指導者)はバカだ」と叫んだ酔っ払いが捕まり、懲役11年の刑が言い渡された。酔っ払いは裁判官に「侮辱罪にしては重すぎやしませんか」とたずねると、裁判官は「侮辱罪は懲役1年。残りは国家機密漏洩(ろうえい)罪だ」>

 ロシア人は家族や友人との会…

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