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記者サロン 50代のロスジェネ

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記者サロン会場で参加者を前にトークする雨宮処凛さん(右)と真鍋弘樹記者=東京都港区、慎芝賢撮影

 バブル崩壊後に社会に出た就職氷河期世代が50代を迎えています。ロスジェネと呼ばれて約20年、多くの人が今も不安定雇用に苦しんでいるのが現実です。この世代の高齢化は何をもたらすのか。作家・反貧困活動家の雨宮処凛さんと、真鍋弘樹・フォーラム編集長が記者サロンで語り合いました。

記者サロン 50代のロスジェネ

8月29日まで、デジタル版の有料会員の方は何度でもご視聴いただけます。申し込みは募集ページから。

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記者サロン「50代のロスジェネ~どうなる・どうする日本社会~」

 「この中に、ロスジェネ世代の方はいますか?」

 冒頭、会場の参加者にそう問いかけると、半数以上が手を上げた。収録場所は東京・芝浦のコミュニティースペース「SHIBAURA HOUSE」。三方がガラス張りの空間で、雨宮さんと参加者が一体となる雰囲気とともにイベントは始まった。

 ロスジェネとは、就職氷河期世代のことを指す。朝日新聞が2007年に「ロストジェネレーション」という新年企画を掲載したことから広まった言葉だ。

 企画に携わった真鍋弘樹記者が、「失われた世代」と刻印することにためらいがあったと明かすと、雨宮さんは「自分たちは犠牲になった世代だ、と言い当ててくれた」と当時の思いを振り返った。

個人の生きづらさではない社会構造の問題

 「好きでフリーターをやっていると言われ、若者バッシングと一緒になって全く対策もされなかった」。日本社会で普通に働いて普通に生きることが破壊されている。これは個人の生きづらさではなく、社会構造の問題だと知らしめた「パワーワード」がロスジェネだった、という雨宮さんの言葉に、参加者たちはうなずいた。

 その気づきから、20年近く。ロスジェネは50代になりつつあるが、問題は解決していない。団塊ジュニア世代を含む人口層を安定させれば、少子化対策にもなり、日本社会にとってもプラス――雨宮さんはそう政治に呼びかけてきたが「完全にスルーされた」という。

 このままでは最後のセーフティーネットである生活保護しかない。それが目前に迫っても動こうとしない政治の欺瞞(ぎまん)を雨宮さんは指摘し、反貧困活動の現場で知り合った人たちの苦境と絶望について実例を挙げて語り続けた。

「本当に奇跡的な場でした」

 「進んで生活保護を利用したいという声は一度も聞いたことがない。みんな得意な分野で自分を生かせるチャンスが欲しいだけなんです」

 決して諦めない。そう語る雨宮さんに会場からの質問は途切れなかった。「本当に奇跡的な場でした」。雨宮さんは、イベントをそう振り返った。

雨宮処凛さん

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ロスジェネ世代のオピニオンリーダーとして知られる雨宮処凛さん=東京都港区、慎芝賢撮影

 あまみや・かりん 1975年生まれ。作家・反貧困活動家。反貧困ネットワーク世話人。ロスジェネ世代のオピニオンリーダーとして知られる。「生きさせろ! 難民化する若者たち」はJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。

参加者の感想から

●東京都 50代女性 あっという間の1時間、まだ聴き足りない気持ちになるぐらい良い内容でした。転職もしているので苦しい経験もあり、これがロスジェネということかと振り返ったりします。結婚、出産、子育て、パート労働、住む所もあってたまたま恵まれている現在。グラグラしながらもなんとかバランスをとって生きている感覚です。

●北海道 60代男性 一般的には知っていたつもりの問題について、あまりにも無知だったことがよく分かった。雨宮さんは現状にユーモアでも対処できる稀有(けう)な存在だと改めて認識。

●静岡県 50代女性 ロスジェネ世代です。本当に「はずれくじを引かされた」ような世代だと実感しています。漠然とした不満を言語化して頂いたような気がしました。ただ雨宮さんが何年も前から政治家に訴えてきたにもかかわらず、問題が実質放置されてきたことを知り、絶望感が増しました。

●東京都 60代男性 現実に起きている問題をしっかりと認識させてくれたこと、そしてその認識が自分自身の問題でもあることが想像できたこと、この2点だけでも十分視聴した価値があったと思います。ありがとうございました。

●兵庫県 60代女性 雨宮さんが政治に具体的に働きかけてきたことが分かった。私の就職時期はバブルの時代。生まれた時代が悪かった、で済まされる問題ではない。政治家はもっと柔軟な思考回路を持ってほしい。正規雇用になれない人がいる一方で労働力不足。世の中おかしなことばかり。

●神奈川県 50代男性 社会政策の改善には国民に負担の必要性を説くべきだったが、政治家の多くが票田確保のためにおじけ付き、長年先送りされてしまった。

●東京都 60代女性 失われた30年をサバイバルしてきたパイオニアと捉え直して社会や政治を変える力になって欲しいと思いました。自己責任という言葉で分断されてきた団塊ジュニア世代が、文字どおり塊になって山が動いて行くのを応援しています。

●大阪府 70代以上女性 考えさせられることが多々ありました。社会全体の問題として、捉えなければいけないということ。活躍できる場所の提供などなど。人間は幸せになるために生まれたのです。そのための学びや、努力が報われる社会であってほしと思います。

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記者サロン「50代のロスジェネ」に出演した雨宮処凛さん=東京都港区、慎芝賢撮影
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記者サロン会場で参加者を前に話す雨宮処凛さん(右)と真鍋弘樹記者=東京都港区、慎芝賢撮影

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