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インドネシアの西アチェ沖で2024年3月21日、転覆した船で救助を待つロヒンギャの人々=ロイター

 スマホに送られてきた写真を開き、思わず目をそらした。

 3月19日、タイに住むミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャの知人から送られてきた写真。そこには体の一部が損傷した遺体や、そばで力なく座り込む人たちの姿がうつっていた。

 中には、幼い子どもとみられる遺体も。

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 「また殺戮(さつりく)が始まりました。私たちロヒンギャには安全に生きられる場所も、守ってくれる人もいません」

 惨劇が起きたのは、この前日のこと。英国に拠点を置く人権団体「ビルマ・ロヒンギャ協会」によると、西部ラカイン州にあるロヒンギャの村に国軍の攻撃とみられる空爆があり、民間人22人が死亡した。半数は子どもだった。2月にも2度、ロヒンギャの村が爆撃され、計16人が死亡。国軍が民主派や仏教系の少数民族武装勢力との衝突で劣勢となる中、強制的に徴兵されたロヒンギャが人間の盾にされ、97人が死亡したとの報告もある。

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2024年3月18日、ミャンマー国軍の攻撃とみられる空爆を受けた西部ラカイン州の村。20人以上のロヒンギャが犠牲になったという=関係者提供

 国連が「世界で最も迫害されたマイノリティー」とするロヒンギャを取り巻く環境は今、より厳しさを増している。

脱出しても8人に1人が犠牲に

 仏教徒が9割近くを占めるミャンマーで、ロヒンギャは国籍を奪われ、差別や迫害を受けてきた。2017年、国軍による武装組織への「掃討作戦」をきっかけに、6年間で約96万人が隣国バングラデシュに逃れた。難民キャンプは過密状態となり、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、5歳未満の子どもの10%以上が栄養失調状態にある。しかし、世界からの関心は低下している。UNHCRは昨年10月、「関心や資金がウクライナや中東などに向けられ、年間に必要な支援額の40%ほどしか集まっていない」と危機感を訴えた。

 そうした苦境の中、身の安全や仕事を求めて他国への密航を試みる人たちも少なくない。UNHCRによると、23年に約4500人のロヒンギャがバングラデシュの難民キャンプとミャンマーからボートで脱出し、うち569人が死亡または行方不明となった。命を落とす危険があっても、その道に一縷(いちる)の望みを託すしかないからだ。

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バングラデシュ南東部コックスバザールの難民キャンプ。竹とビニールの小屋が密集している=2020年1月23日、奈良部健撮影

 遺体のうつった写真を見て、2週間前に国境の町で出会った若者の顔が浮かんだ。彼が語った旅路の記憶は凄惨(せいさん)なものだった。

 ミャンマーに接するタイ北西部の町メソトは、ロヒンギャの避難民が行き着く場所の一つだ。両国を結ぶ「友好橋」があり、ミャンマーとの国境貿易で栄えてきた町だ。

 にぎわう町の影で、路地裏に身を潜めて暮らすロヒンギャの人々。記事後半では、3カ月に及んだ難民キャンプからの脱出劇と、身動きの取れない約2年間の生活の中で抱える思いを、一人の若者が語ります。

 中心街を歩くと、イスラム教…

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