工房で話をする四代田辺竹雲斎さん。数百年前の竹が並ぶ=2024年12月19日、堺市堺区、水野義則撮影

 4月に開幕する大阪・関西万博で、日本政府は「日本の文化や伝統の魅力を育み、発信し、継承する」ことを目指している。その取り組みや万博への期待を、伝統工芸の担い手はどう見るのか。世界で活躍する大阪在住の竹工芸家、四代田辺竹雲斎さんに聞いた。

――欧米や中華圏など海外で展覧会を重ねています。作品に対する外国人の反応をどうみますか。

 日本国内の反応とは全然違います。日本人は、私が作品づくりで使う自然素材の竹や手編みの技法に、なじみがあります。これに対し、外国人には、1千年にわたって続く日本の伝統工芸そのものが珍しいのでしょう。竹工芸の原始的な作り方を知り、「作品から自然のエネルギーを感じる」といって非常に感動してくださいます。こうした反応は、海外では国を問わず共通しています。

――展覧会場を空間として作品に仕立てる現代アート「インスタレーション」のほか、伝統的な花かごなども手がけています。海外での需要に差はありますか。

 海外で展覧会を始めた20年ほど前は、伝統的な作品を中心に展示していました。でも、竹工芸は、海外で重んじられる彫刻や絵画、現代アートという3種類の範疇(はんちゅう)に入らず、「装飾美術」として一段低い扱いを受けます。長く美術館のメインホールで展示してもらえず、壁にぶつかって思い至ったのが、竹工芸を現代アートに昇華させるインスタレーションでした。

 2011年から制作を始め、16年にパリのギメ東洋美術館で半年間、展示する機会に恵まれた後から、オファーが増えました。作品によって異なりますが、長さは最大で40メートル、高さも最大12メートルあります。30センチから2メートルの竹ひごを最多で1万5千本使い、4~5人で3週間かけて編み上げます。展示が終われば解体して再利用するため、SDGs(持続可能な開発目標)の考え方が普及したことも追い風になっていると感じます。

――伝統的な花かごなどの需要はどうですか。

 私は海外の展覧会で意図的に、花かごなどもインスタレーションと一緒に展示しています。現代的な作品が生まれるもとには、口伝による技術や精神性、日本の歴史や文化があることを、外国の方にも理解していただきたいからです。私が大切にしている「守・破・離」という考え方で、「守」は伝統の継承を意味し、作品では花かごなどが当たります。「破」は伝統からの革新で、オブジェなどが代表的です。そして、「離」は新たな創造を指し、インスタレーションが相当します。

 展示の際には、創作のコンセプトや、作品の背景にある歴史的な物語を動画などでも伝えています。こうした結果、かつては販売が難しかった花かごなどの伝統工芸作品がインスタレーションの「ルーツ」だとみなされ、関心を持っていただけるようになりました。伝え方次第で、新たな市場を開拓できるのを実感しました。

――近年は、イタリアのグッチやスペインのロエベなどの有名ブランドともコラボされました。

 チャレンジし続けないと、歴史ある竹工芸が廃れてしまうという危機感が強いです。伝統文化を次世代に継承させなければならないという使命感もあります。

 竹工芸が生き残るには、ビジネスとして成立する環境づくりが欠かせません。文化的、技術的に優れた後継者を育てることも必要です。

 こうした点を考えると、有名ブランドとのコラボには、非常に大きな意味があります。「竹工芸家の四代田辺竹雲斎」と聞くと、古くさく、融通の利かない人物だと想像されてしまいがちです。でも、異業種とのコラボにより、若い人に「伝統工芸は格好いい」と感じてもらえるうえ、努力とアイデア次第で、伝統工芸の価値を高めることも出来ます。

中韓におくれる政府の伝統工芸PR 海外市場を得るための方策とは

――田辺さんは技術の高さや伝承への姿勢を評価され、日本政府から2012年、「世界で活躍し『日本』を発信する日本人」に選ばれました。政府との活動を通じ、感じたことはありますか。

 日本政府は、中国や韓国の政…

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