このコラムは…
何かと慌ただしい毎日、ニュースの消費サイクルもすっかり分単位、秒単位に。そんな時代だからこそ、あえて数百年、数千年の長い時間軸で過去をふりかえり、現代を見つめ、迫り来る未来の波を考えます。
雲より高い巨塔が画面中央にそそり立つ。工事を視察した王が怒り、石工らが命を乞う。16世紀の画家ブリューゲルの代表作「バベルの塔」である。
画題は旧約聖書に由来する。かつて人類は一つの言語を話したが、天に届く塔の建造を神が怒り、言葉をバラバラにする。混乱から工事は頓挫した……。
「聖書のモチーフと目しうる建造物は実在しました」と話すのは西アジア史が専門の立教大教授、長谷川修一さん(53)。メソポタミア文明の栄えた地から、高さ90メートル級の聖塔の跡が発掘されたという。
紀元前6世紀、ユダヤの王国が滅びる。人々が捕囚として連行された先は強国バビロニア。いまのイラク南部あたりだ。「母語ヘブライ語が通じず、言葉の壁に苦しみました」
高塔を誇ったバビロニアもあえなく滅亡する。ユダヤ人が得た教訓は「言語の通じぬつらさ」と「栄華のはかなさ」。伝えるべく創作したのがバベルの物語ではと長谷川さんは推理する。
言葉の通じなさに沈んだ経験なら私にも、それこそ売るほどある。英検だの何だの一通り済ませて米国へ赴任したが、昼食のサンドイッチ一つ注文できない。国連本部の取材を担当するも、日本語は公用6言語の枠外。50代で駐在した香港では広東語が壁となり、人々の本音を聞き出すのに苦労した。
人類は今後も言葉の壁を乗り…