(18日、第97回選抜高校野球大会1回戦 米子松蔭2―10花巻東)
甲子園の醸す雰囲気は特別だ。大会初日の第2試合。柔らかな日差しに照らされた春の聖地は、開会式の余韻を残す空気をまとっていた。
先発のマウンドに上がった米子松蔭(鳥取)の新里希夢(のあ)投手(2年)は「球場全体から経験したことのない勢いを感じた」。
身長158センチの右腕は一回、先頭打者に安打を許し、1死二塁とされて3番打者にボールが先行。捕手の惣郷峻吏(そうごうしゅんり)主将(3年)から「いい球きてるぞ。思い切ってこい」と声をかけられたが、与四球と長短打を集められ3点を失った。
「ちょっと、かたくなっていた」と塩塚尚人監督。昨夏に続く2季連続出場で甲子園経験者が多い花巻東(岩手)に対し、粘り強い守備で終盤まで競った展開を思い描いていたが、「普段なら捕れるような打球も捕れていなかった。これが甲子園という場所なのかなあ」と唇をかんだ。
33年ぶりの春の甲子園に向け、チームは「日本一」を目標に掲げた。昨夏の全国選手権鳥取大会の決勝では、あとアウト一つまでこぎ着けながら逆転サヨナラ負け。現チームの発足後も、昨秋の県大会と中国大会でも決勝で敗れた。「優勝したい」。選手たちのピュアな思いがチームにまとまりを生み出していた。
この冬は大雪でグラウンドを使えない日も多かったが、室内練習で全員が守備の基本動作を繰り返して体に覚え込ませ、得点力アップをめざしてバットも振り込んだ。食事や筋力トレーニングで体も大きくした。
それでも甲子園での勝利は遠かった。この日、チームは10安打で2得点。九回表に代打で中前適時打を放った矢田貝煌大(やたがいこうた)選手(3年)は「また、この負けを生かして、できることを一から考えて強くなりたい」と目を赤くした。
三回表に中前適時打を放った惣郷主将は夏に向けて誓った。「甲子園がどういうところか分かった。必ず戻ってきて『日本一』を取りたい」