現場へ! 震災とオシラサマ(1)
北東北の家々には「オシラサマ」と呼ばれる神様がいる。「家の守り神」などとして慕われる一方、「一度拝んだら一生拝まないといけない」とも伝えられる、ちょっぴり怖い神様だ。
「コッコッコッ……」
東日本大震災が起きた2011年の暮れ。岩手県大船渡市で民宿「嘉宝(かほう)荘」を経営する嘉志一世(かしいちよ)さん(73)が仮設住宅の台所にいると、隣の居間から木で床をたたくような音が聞こえた。
「あ、オシラサマが歩いているな……」
民俗学者・柳田国男の「遠野物語」でも描かれた、謎の民間信仰。馬や娘の顔を彫った長さ約30センチの木の棒などに、毎年1枚ずつ新しい着物をかぶせてまつる行為を「アソバセル」とも呼ぶ。
嘉志家のオシラサマは全部で12体。木箱に入れて神棚の上に保管していたが、津波で自宅は全壊。重いピアノや金庫は流されたのに、不思議なことにオシラサマの箱だけが神棚に残っていた。
津波で汚れた着物を脱がせ…