映像化は絶対無理だ。原作者の中山七里さんはそう考えていたそうだ。主人公は常に無表情で、一切の感情を表さない人物だ。演技で表情が使えないとなると、映像作品としては成立しないのでは、と思っていたという。
そんな懸念をやすやすと飛び越え、「能面検事」(テレ東系、金曜夜9時)で、主人公の不破俊太郎を見事に体現している。
上川隆也が語る意外な“役作り”と「和らぎ水」と表現した共演者とは
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大阪地検のエース検事・不破は、どんなときも冷静で、周囲への忖度(そんたく)もなく、淡々と職務を遂行する。ついたあだ名は「能面」。そんな彼を「とても人間性にあふれた人物」と評する。
「生まれ落ちた時から表情のない人間だったわけではなく、それまでの経緯や経験を踏まえて、彼が選択した手段。その時点で非常に人間くさい」
演じる上では「多重構造」を意識しているという。無表情ではあるが、たたずまいに、声色に、そのときどきの不破の感情がかすかににじんでみえる。「『表情のない男』という一文に押し込めてしまうのではなく、彼とて一人の人間であり、なにがしかの思いがあって、事件や人々に相対している。そのことはベースにおいておきたいと思っています」
「役柄としての立ち振る舞いは、いつも現場でしか生まれない」と語る。現場の空気、たとえば机の配置一つによっても変わり、時々に応じて生まれてくる。「役作りというかっちりとしたものとしては、僕の中にいまだないものでもあります。誤解を恐れず申し上げれば、監督と共演者の方に作っていただくものなのかもしれません」
無表情のようで多様な感情を感じさせ、周囲の人物たちの心の動きをも際立たせる。その奥深さは、本家の能にも通じてみえる。