預金者の名義で無断で作った別口座に不正に融資していたなどとして、東北財務局は29日、いわき信用組合(福島県いわき市)に対し、銀行法に基づく業務改善命令を出した。金融庁によると、こうした架空融資などの不正は遅くとも2004年から行われていたという。
いわき信組は東日本大震災後の12年1月、復興のため金融庁から200億円の公的資金を受けた。公金を受けた金融機関への同命令は初めてという。
金融庁によると、同信組は、預金者の名義人の了解を得ずに開設した複数の別口座に対し、不正な融資を実行。実体のない会社を通じた迂回(うかい)融資もしていた。発覚を免れるため、個々の融資金額を、内部監査の対象にならない低額に抑えていたという。
不正融資した資金は、経営難の大口融資先の返済に充て、不良債権でないように装っていた。金融庁は、信組の経営への悪影響を回避することが目的だったとみている。
また経営陣らは、元職員による多額の横領事件が起きた際、不正融資で補塡(ほてん)し、長期にわたり隠蔽(いんぺい)してきたという。
金融庁は、不正が長年続いた背景として、信組内で「絶対的な存在」だった江尻次郎元会長に、理事会などが異議を唱えることができていないと指摘。ガバナンスが機能していないとした。
東北財務局は同信組に対し、業務改善計画を6月30日までに提出するよう求めた。命令では、経営責任の明確化のほか、無断で名義が使われた顧客への丁寧な説明や調査の徹底も求めた。
金融庁は、公金注入先での20年以上の不正が監査などで見抜けなかったことについて、「重く受け止めている。なぜ早い段階で把握できなかったかを確認し改善したい」とした。業務停止命令などではなく改善命令とした理由は「地域の金融仲介機能や事業者への影響を総合的に勘案した」と説明した。
同信組は29日、本多洋八理事長ら役員の退任をHP上で発表。「組合員はじめ関係者の皆様にご迷惑をおかけしたことを深くおわびする」とした。
同信組は昨年11月、大口融資先の企業の家族らの名義を使った迂回融資があったと発表し、第三者委員会を設置した。第三者委は30日に調査報告書を公表する予定だ。
「絶対的な存在」と指摘、元会長は何を語った?
東北財務局の処分で、不正の中心的な存在と指摘された江尻次郎元会長は5月中旬、いわき市の自宅近くで朝日新聞の取材に応じた。「お話しできることはない」としつつ、自身について「責任は大きい」と述べた。
主な一問一答は次の通り。
――預金者の名義で別口座を…